バロック時代における3声部で記譜されたソナタ。教会ソナタ,室内ソナタが楽章の構成法と様式にかかわるとすれば,これは記譜された声部数からくる名称である。ほとんど同じ音域の上2声と,通奏低音部による3声部から成る。上2声には普通はバイオリン2もしくはフルート2,またはバイオリンとフルート各1,その他オーボエ,リコーダー,ビオラ・ダ・ガンバなどの管・弦楽器が用いられる。通奏低音には和声充塡用のハープシコード(あるいはオルガン,リュートなど)のほか,低音を補強する旋律楽器(チェロなど)が加わり,通常は計4人で演奏される。
トリオ・ソナタの起源はトリオ・カンツォーナにある。これはルネサンス時代の合奏カンツォーナ(カンツォーネ)が新しいモノディの原理の洗礼を経て成立したものである。バロック初期ではガブリエリ(G. ガブリエリ),ロッシSalomone de Rossi(1570ころ-1630ころ),メールラTarquinio Merula(1594ころ-1665)らが作品を残している。トリオ・ソナタを完成に導いたのはコレリで,彼のそれぞれ二つの教会ソナタ集(1681,89)と室内ソナタ集(1685,1700)はとくに重要である。トリオ・ソナタは当時のイタリアをはじめドイツ語圏,フランス,イギリスなどヨーロッパ各国で盛んに作曲され,バロックの典型的なソナタとなった。バロック後期には,J.S.バッハのバイオリン・ソナタやオルガンのためのトリオなど,独奏(単声)とチェンバロ(2声)あるいはオルガン独奏(3声)という新しいトリオの型も現れた。18世紀後半には通奏低音の原理が本来の意義を失いつつあったが,それに伴ってトリオ・ソナタも古典派のソナタ,すなわち独奏オブリガート付の鍵盤ソナタ(鍵盤ソナタに他の独奏楽器が加わる,つまりバイオリン・ソナタなど)や弦楽三重奏・四重奏などの新しい型の室内楽に道を譲ることとなった。
→ソナタ
執筆者:土田 英三郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
17世紀後半から18世紀前半にかけて流行した、二つの旋律楽器と通奏低音による室内楽。この場合のトリオとは、古典派以後の三重奏曲のように楽器の数を示すのではなく、三つの声部が基本となっている書法を意味する。トリオ・ソナタはイタリアで生まれ、コレッリの各12曲からなるトリオ・ソナタ曲集(四巻、1681~94)の出版以来、全ヨーロッパに広まった。形式は、初期のカンツォーナ風のものから、教会ソナタ(緩―急―緩―急の四楽章構成)や室内ソナタ(舞曲の連続)、さらにはこの二つの形式を混合したものへと変わっていく。コレッリ以後の主要作曲家には、イギリスではパーセルとヘンデル、フランスでは大クープラン、ドイツではテレマンやJ・S・バッハなどがいる。とくにバッハの作品では、伝統的な三声部書法(二つの手鍵盤(けんばん)とペダルがそれぞれ独立したパートをもつ)にイタリアの協奏曲の三楽章構成(急―緩―急)を取り入れたオルガン用トリオ・ソナタなどにおいて、斬新(ざんしん)な試みがなされている。
[関根敏子]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…ライプチヒのクーナウの三つの曲集はよく知られ,とくに《聖書ソナタ》(出版1700)はこのジャンルにおける標題音楽の最初期の例として有名。(3)ほぼ同じ音域の2声部と通奏低音から成るトリオ・ソナタ 上2声はバイオリンあるいはビオル,ツィンク(コルネット),リコーダー,フラウト・トラベルソ,オーボエなど,通奏低音はチェロもしくはビオラ・ダ・ガンバ,ビオローネ,ファゴットなどと,チェンバロもしくはオルガン,テオルボなどの計4人で演奏される。この型はバロック・ソナタの主流を占めるが,チーマ以後,コレリの作品1~4(出版1681‐94)をはじめ,パーセル,ヘンデル,クープランなど各国の大家の作品がある。…
…ハープシコードのための音楽として広く好まれたのは,組曲であった(F.クープラン,フローベルガー,J.S.バッハ)。室内楽の楽器編成では,古典派以降は最もスタンダードな形式は弦楽四重奏であるが,バロック音楽では,二つの高音旋律楽器(バイオリン,フルート,オーボエなど)と通奏低音のためのトリオ・ソナタがこれに対応する。【服部 幸三】。…
※「トリオソナタ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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