リードを用いない気鳴楽器の一種。いわゆる縦型フルートに属し、ブロックフレーテなど多くの名称をもつ。
西欧諸国では、ルネサンス時代から18世紀中ごろ、とくにバロック時代に非常に愛好され、当時は単にフルートといえばこの楽器をさした。A・スカルラッティ、ビバルディ、テレマン、バッハら多くの作曲家がリコーダーのための作品を書いている。しかし、18世紀中期になると強弱変化の激しい音楽が登場し、強弱の幅が狭いこの楽器は、18世紀の後期ごろからしだいに用いられなくなり、やがて芸術音楽の場から姿を消す。リコーダーの復原および復興は19世紀末になされた。それはイギリスのドルメッチらに負うところが大きく、以後芸術音楽や教育用楽器として広く普及するようになった。近年の名手としては、フランス・ブリュッヘンなどがあげられる。
現在一般に用いられているリコーダーはバロック時代のものをもとにした形で、バロック型とよばれる。ソプラニーノ(F管、音域はF5~G7)、ソプラノ(C管、C5~D7)、アルトまたはトレブル(F管、ソプラニーノの1オクターブ下)、テナー(C管、ソプラノの1オクターブ下)、ベースまたはバス(F管、アルトの1オクターブ下)、グレートベースまたはコントラバス(C管、テナーの1オクターブ下)の6種あり、順に大型になる。全管とも通常の音域は2オクターブと1全音であるが、指遣いによってさらに高音域を拡大することもできる。材質は木製のものが多いが、学校教育用を中心にプラスチック製の楽器も広く普及している。
楽器は頭部・中部・足部の3管に分かれ、足部がやや広がった形であるが、内部は下端へ向かってややすぼまる逆円錐(えんすい)形をしている。使用時に組み立てるはめ込み式になっているが、ソプラニーノやソプラノといった小型の楽器は足部管が分かれていないものも多い。頭部管には上端部に吹口、前面に歌口がある。歌口は管を上向きに切り込んで四角い小窓をあけたもので、この斜面と管の内面でエッジができている。管の上端は栓(フィップル)でふさぎ、この栓と内壁に彫られた細長い溝によって気道を形づくる。管の上端と栓の形はくわえやすいようにくちばし形に整えてあり、これが吹口となっている。ただし、ベース以下の大型の楽器では、直接管の上端をくわえると下のほうの指孔に手が届かなくなるため、吹口をつくらずに吹き込み管(クルック)を取り付ける。フルートのようにエッジに直接息を当てるのではなく、気道を通して発音させる仕組みである。中部管には、歌口の側(前面)に6個、背面に1個の指孔がある。背面の指孔は親指で操作し、わずかに開くことによって2オクターブ目以上の音を出しやすくする働きをする。足部管には1個の指孔がある。現代の楽器では前面の7孔のうち下の2孔は、隣接した小さな2個の孔で1個の機能となるよう設計されている。これは、最低音域でも半音が得られるようにするためである。
なお、インドネシアのスリンなどは同じ発音原理の楽器であるが、スリンの場合は気道が管の外壁に沿って設けられており、歌口は背面(奏者側)に設けてある。
[卜田隆嗣]
『H・M・リンデ著、北御門文雄訳『リコーダー演奏の技法』(1980・全音楽譜出版社)』▽『H・M・リンデ著、矢沢千宜・神谷徹訳『リコーダー・ハンドブック』(1984・音楽之友社)』▽『E・ハント著、西岡信雄訳『リコーダーとその音楽』(1985・全音楽譜出版社)』
洋楽の管楽器の一種。エア・リードの笛,つまり広義のフルートに属し,指孔は前面に7,背面に1の計8個。英語の動詞recordに,古くは鳥の〈さえずる〉意味があり,語源かといわれる。縦に構え上端をくわえて吹く。上端は栓をしてあるが,1ヵ所だけ空気の通るすきまをあけ,呼気を近くの歌口に導くようになっている。また不要部を削ってくわえやすくする結果,外観は嘴(くちばし)状をなす。別名ブロックフレーテBlockflöte(ドイツ語)は管端の栓(ブロック)から,フリュート・ア・ベックflûte à bec(フランス語)は嘴(ベック)からきている。西洋音楽でルネサンスからバロックにかけて重用され,当時たんにフルートといえば横笛でなしにこの縦笛を指すのが通例であった。ルネサンス期には単純な1本の円筒管だったが,バロック期には内径が先細りに変わり,外周に装飾的隆起帯がめぐらされ,3部分に分けて作ったものを使用時に継ぎ合わすようになった。古典派以後いったん忘れ去られたが,古楽再認識の波に乗って近年の復興はめざましい。また20世紀の両大戦間にドイツの青少年運動に利用されて以来,教育楽器としての普及が著しい。大小各種あるが,今日普通にはハ調またはヘ調を基調として作る。大衆レベルで普及度抜群のソプラノ(ディスカントとも)はハ調,指孔全閉の最低音を2点ハとし,テナーはそれよりオクターブ低く作る。規準的で独奏曲目も多いアルト(トレブル)はヘ調,最低音は1点ヘ。ベースはアルトよりオクターブ低い。各種とも常用音域は2オクターブと長2度。便宜上ソプラノやベースの譜を実音よりオクターブ低く書く。音質が柔らかいため音高が実際よりオクターブ低いかのように錯覚されやすいことが,17世紀以来いわれている。
A.ドルメッチらのじみな努力の蓄積により徐々に復興に向かっていたこの笛は,青少年運動によって一気に大衆性を帯びたが同時に問題を生んだ。運動関係者が着目したのは手軽に扱える笛としてであり,ここで歴史的な指孔配置を改めて指使いをわかりやすくしたいわゆるジャーマン・フィンガリングの笛が作られ,普及させられた。しかしこの設計変えによって奏法が楽になるのは,ハ長調やヘ長調の単純な音階や旋律についてであって,実は楽器本来のバランスが崩れ,半音階的変化音は不安定に,嬰種調の演奏は以前よりかえって困難になった。日本の一般初等教育にもこの設計の縦笛が入っている。初歩の一時期の指導の便のみを採るか,楽器本来のあり方に最初から親しませるべきか問題である。しかし,本来的なものを追究しながらの復興も進み,伝統の絶えていた楽器とは思えないほどの盛況をみせている。
執筆者:関根 裕
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… エア・リードは横笛以外の楽器でも利用されている。たとえば縦に構える楽器として,まずリコーダー,スリン,タイのクルイなどがある。管の上端を一応は閉じてあるが,なんらかの形で狭い隙間(気道)がつくってあり,管端をくわえて吹くと呼気は気道に入って歌口に導かれる。…
… この種の楽器の歴史は非常に古く,ヨーロッパへは12~13世紀ころ伝えられ,ルネサンス時代に入ると同族楽器だけで,あるいは他の楽器や歌に合わせてアンサンブル用楽器として用いられた。しかしそのための楽器としてリコーダーの方が先んじて完成の域にあり,フルートはようやく17世紀の後半になって,フランスのオットテール一族を中心に改良が行われた。彼らの仕事は室内楽に適する木管楽器を作り,奏法を開発し,作品を書くことであった。…
※「リコーダー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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