改訂新版 世界大百科事典 「ドマ」の意味・わかりやすい解説
ドマ
Jean Domat
生没年:1625-96
フランス最大の法学者の一人。法曹の家系に生まれ,ブールジュ大学に学び,弁護士を経て,1655年以降30年間,生地クレルモン・フェランの上座裁判所検事を務めた。同郷のB.パスカルとは生涯の親友で,ともにジャンセニスムの信仰擁護のために闘い,その最期には個人的書類を託されてもいる。彼の独創性は,ローマ法の諸原則を宗教的諸原理(神の愛)と時代の必要(隣人愛)の観点から,すなわち自然法的・合理的秩序に従って再構成したことにあり,この仕事がルイ14世に認められ,85年以降パリ近郊ポール・ロアイヤル修道院の隠士として著作に専念した。主著《自然的秩序における民事的諸法律Les lois civiles dans leur ordre naturel》(1689-94)は,ローマ法を脱却し,真のフランス法の体系化と法典化との基礎を確立するもので,契約上の意思主義と信義誠実の遵守,原因cause(英米法でいうコンシダレーションにほぼ対応する)の理論,民事責任の諸原則など今日に至るフランス民法の内容を決定づけるとともに,その影響は翻訳を通じ広く欧米に及んだ。続編としての《公法》(1697)は,私法に対する関係で公法を自律的なものとする考え方とリベラルな国家観との点で傑出した先駆性を有している。〈法学における理性の復興者〉(ボアロー)とうたわれたが,生涯清貧廉直の人であり,遺言により郷里の墓地に彼がその救済に腐心した貧者たちとともに眠っている。
執筆者:北村 一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報