日本大百科全書(ニッポニカ) 「ボアロー」の意味・わかりやすい解説
ボアロー
ぼあろー
Nicolas Boileau-Despréaux
(1636―1711)
フランスの詩人、批評家。パリに生まれる。神学と法律を学ぶが、21歳で父を失い遺産を相続すると、天職と信じていた文学を志す。30歳のとき、パリ人の風習を批判したり、当時の流行作家キノーをこきおろしたりした『風刺詩1~7』Satires(のちに増補されて12編)を発表して有名になる。また『書簡詩1~12』Épîtres(1670~95)によって批評のジャンルを開拓した。ほかに滑稽(こっけい)叙事詩『譜面台』(1674~83)もあるが、文学批評史上重要なのは『詩法』Art poétique(1674)である。鋭い批評眼を有していた彼は、このなかでモリエール、ラ・フォンテーヌ、ラシーヌという彼の友人でもある偉大な作家たちの傑作を基に、古典主義文学の理論を集大成した。彼の文学観の根底にあるのは理性で、『詩法』でも「理性を愛せ」と歌い、理性の欲求を満たすものを美とみなした。また、自然(人間性)のなかにある「真実らしさ」を正確に写すことを説き、読者に好まれるためには古代の優れた手本に従うべきであるとした。「新旧論争」では古代派の代表だった。『詩法』は大革命のころまで文学の聖典とされ、大きな影響を与えた。アカデミー会員。
[伊藤 洋]
『小場瀬卓三訳『ボワロー 詩法』(『世界大思想全集 第21巻』所収・1958・河出書房新社)』