法の分類の一つで,私法に対する意味で用いられる。法をこのように,公法と私法に区別することは,ローマ法でも行われていたといわれるが,区別をする趣旨は必ずしも一様ではない。
法解釈学,とくに行政法学で論ぜられるのは,私法が適用される法関係とこれと内容を異にする公法が適用される法関係の二つが制度上区別されている場合である。この点について,フランス,ドイツ等の大陸法系の国では,行政上の法律関係に関する訴訟のうち,公法上のものについては,原則として,民・刑事を管轄する通常裁判所とは別系統の行政裁判所(行政裁判)の管轄に服するものとし,かつ,その際,実体法上も,私法とは異なった公法原理が適用されることとされてきている。そこで,公法原理の具体的内容がどのようなものであるか,具体的な関係が公法上の関係か私法上のものか,これを識別する標準は何か,といった問題が,公法・私法論として,判例および法解釈学説によってとりあげられることになる。これに対して,イギリス・アメリカ法系では,制度上,このような形での公法・私法の2区分は採用されていない。
日本においては,明治憲法の下では大陸法系の制度が採用され,公法上の事件,すなわち行政事件については,原則として行政裁判所が管轄することとされていたので,制度上,公法と私法の区別があることについては異論がなかった。これを基礎として,行政法は行政に関する国内公法であると定義されていた。その際,この区別の標準をどこに求めるかについては,いろいろな考え方があったが,私法が対等当事者間に関する法であるのに対し,公法は権力関係に関する法であるという権力関係説が支配的見解であった。さらに,公法と私法の関係については,両者の区別を強調し公法秩序に私法的原理が及ぶことに反対する考え方と,この区別を相対的にとらえる考え方が対立していた。後者の見解では,私法,とくに民法規定のなかにも,法の一般原理と見られるものがあること(例えば,信義誠実の原則,期間計算の方法など)が指摘された。また,行政上の関係でも,私法規定の適用を見る領域が広く存在するとされた。このような学説上の状況は,結局は,国家と私人の関係にも市民法的原理を導入しようとする自由主義的な考え方と,君主主権のもとにおける行政権の特殊性を強調する絶対主義的な考え方の対立を反映したものであった。
日本国憲法の下では,行政裁判制度が廃止され,最高裁判所の系列に属する裁判所が国家と私人間の法律上の争いもすべて管轄することになった。しかし,訴訟手続としては,行政事件に関する特別の規定が引続きおかれることになり,現行法として行政事件訴訟法(1962公布)がある(行政訴訟)。そして,同法は,行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟である抗告訴訟について定めるほか,一般的な公法上の法律関係に関する当事者訴訟の類型を置き,これにも若干の規定の適用があることとしている。そこで,現在でも,日本の法は制度上,公法と私法の区別を採用しており,したがって,なおこの2区分を論ずる意義がある,とする考え方がある。これに対して,行政裁判所が廃止されたこと,公法上の当事者訴訟に適用される規定は重要度の低いものであること,私法原理と異なった実体公法上の原理といっても,必ずしも統一的な内容をもったものが存在しているわけではないこと,などの点から,制度上,公法と私法の区別が採用されているとは言いがたいし,また,この区別をたてても現実の解釈上,意義がないことを主張する見解がある。
公法の概念は,行政法解釈学以外においても,実定法を認識し,整理する際の分類としても用いられる。この場合は分類基準の立て方によって,公法の内容は異なってくるが,国家と社会の区別に対応して,自由な個人相互の関係を規律するものとしての私法の領域と,国家と私人の関係を規律するものとしての公法の領域を原理的に対立させることがある。このような認識は,具体的な法解釈論に直接には結びつかないが,各種の法制度を作っていく場合に考慮すべき基本的原理として,あるいは,法解釈の場面でも指導原理として機能することがある。また公法の名称は,憲法・行政法を中心とする学問分野を指すものとして用いられることもある。公法学会,公法コースなどがその例である。
→私法
執筆者:塩野 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
広く法体系の分類としては国家・公共団体にかかわる法、すなわち憲法、行政法、刑法、刑事訴訟法、国際公法などを公法といい、民法、商法、国際私法など私人間の法律関係に適用される私法に対比される。経済法や労働法はこの意味での公法と私法との混合領域である。より狭義には、行政活動に適用される法のうち、私人間にも適用される私法を除いた、行政に特殊固有の法を公法といい、これは行政法ともよばれる。実定法上は租税法、土地法、環境法、公務員法、教育法、防衛法、警察法などの法群が公法であるが、公法と私法との区別はかならずしも明確でなく、各種の学説がある。
もともと、公法と私法との区別はドイツ、フランスなど大陸法系の諸国で認められてきたもので、公法の領域については行政裁判所、私法の領域については民事裁判所が管轄権をもつという裁判制度と相まって、この区別は重要であった。日本では大日本帝国憲法時代に大陸法系の制度を導入したので、この区別は実際的意義をもち、また、行政裁判所は私法と離れて裁判するところから、公法独自の法原理が形成されていった。しかし、公法と私法との区別については、国家または公法人に関する法はすべて公法とする主体説、権力服従関係に関する法を公法とする権力説、公益に関する法を公法とする利益説など諸説が対立し、またそれは時代により国により異なって理解されてきており、時代を超越した普遍的なものではなかった。これに反し、英米法系の諸国では行政裁判制度を置かず、国家・公共団体も私人と同じ民事裁判所の管轄に服するので、行政に固有の法体系としての公法は成立しなかった。第二次世界大戦後の日本は英米法系に倣って行政裁判所を廃止し、行政に関する争いはすべて民事裁判所の裁判に服することにしたので、公法と私法の存立基盤は揺らいでいるが、それでも行政事件訴訟法は公権力の行使に関する不服の訴訟として抗告訴訟、公法上の法律関係につき公法上の当事者訴訟の制度を置いているので、この法律の適用関係を画するために公法と私法との区別をする必要があるとされる。しかし、公法と私法との区別は実際上困難であるうえ、公法上の当事者訴訟と民事訴訟との違いはほとんどないことから、今日では公法と私法との区別はほとんど実益がなくなっている。
[阿部泰隆]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
カスタマー(顧客)とハラスメント(嫌がらせ)を組み合わせた造語「カスタマーハラスメント」の略称。顧客や取引先が過剰な要求をしたり、商品やサービスに不当な言いがかりを付けたりする悪質な行為を指す。従業...
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
7/22 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
6/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
5/20 小学館の図鑑NEO[新版]昆虫を追加