公法に対する概念。公法との対比をどのように説明するかについては,いろいろな考え方がある(公法と私法の区別は,伝統的に公法について論ずる際に説明されることが多いので,詳しくは〈公法〉の項に譲る)。ごく一般的には,これは法律体系の区別として用いられるものであって,国・地方公共団体等の行政権の主体と,その権力に服する個人間の法律関係,または行政権の主体の組織,その相互の関係を定めるのが公法であるのに対し,私法はそれ以外の,主として個人間の,したがって一方の権力に服するという関係にはない者同士の法律関係を定める法全体をいう,と説明される。もっとも,これだけでは十分に説明できない場合も多く,厳密な説明ではない,とされている。また,法技術的な意味で公法・私法を区別する実益も現在では大きくないとされている。結局,私法の概念は,権力的要素が国家に一元化され,その反面で経済的活動が私人の自由にゆだねられるようになって,国家と社会とが分化した17,18世紀以降の西ヨーロッパ社会の構造との関連で説明するほかない。こう考えれば先述の説明は,ほぼそれに近いが,言いかえると私法とは,だいたいにおいて独立対等な個人が取引し合う場としての市場機構を創設,維持,運営するための法体系といえる。この意味での私法の概念は,市場機構の変化とともに大きく変化し,公法との区別は明確でなくなっている。
執筆者:平井 宜雄
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民事法ともいう。公法の対立概念。一般には、対等な私人間の法律関係を規制する法をさし、民法、商法などがこれにあたるとされるが、公法と私法の区別については古くから論争があって、私法の概念や範囲などについて明確な通説は存在しない。たとえば法実証主義者のうちには、法はすべて公権力の命令という意味で公法であり、私法などというものは存在しないという学者もあり、いわゆる私法もまた裁判所という公権力の発動の条件を定める公法であるという。また親子関係という不平等な関係を中心とする家族法は公法だという思想は、古代ローマ以来強く、旧家族制度下の日本でも有力な主張であった。
20世紀の資本主義においては、古典的な対等な取引関係は擬制的なものとなり、使用者と労働者、企業と消費者、地主と借地人などの関係は強者と弱者の関係となってきたため、弱者の保護のために権力が介入する新立法が続々現れ、いわゆる「私法の公法化」の現象が広くみられる。たとえば、雇用関係が労働基準局の、大企業間の協定が公正取引委員会の監視下に置かれ、農地における地主と小作人との関係も農地委員会の監督下に置かれている。なお、民事訴訟法は理論上は公法に属するが、民事訴訟法学会が私法学会に属するなど、便宜上私法の一部として扱われることも多い。
[長尾龍一]
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