ナポレオン法典(読み)ナポレオンホウテン(英語表記)Code Napoléon

デジタル大辞泉 「ナポレオン法典」の意味・読み・例文・類語

ナポレオン‐ほうてん〔‐ハフテン〕【ナポレオン法典】

1804年3月、ナポレオン1世が制定した民法典。全文2281条。私的所有権の絶対、個人意志の自由、家族の尊重を基本原則とし、身分編・財産編・財産取得編の3部からなる。世界各国の民法に大きな影響を与えた。

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精選版 日本国語大辞典 「ナポレオン法典」の意味・読み・例文・類語

ナポレオンほうてんナポレオンハフテン【ナポレオン法典】

  1. ナポレオン一世の制定したフランスの民法典。一八〇四年公布。全文二二八一か条、身分編、財産編、財産取得編の三部からなる。法の前の平等、私的所有権の不可侵、個人の自由、信仰の自由などを基本原則とし、世界の市民法に大きな影響を及ぼした。

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改訂新版 世界大百科事典 「ナポレオン法典」の意味・わかりやすい解説

ナポレオン法典 (ナポレオンほうてん)
Code Napoléon

1804年3月21日の法律によって制定されたフランスの現行民法典。初め〈フランス人の民法典Code civil des Français〉と題されたが,07年9月3日の法律でナポレオンの名を冠することとなった。法典の正式名称はその後数次にわたって改められ,第三共和政以降は単にCode civilとされているが,同法典の歴史的呼称としては今日でも〈ナポレオン法典〉の語が用いられる。

 旧制下における北部の慣習法と南部の成文法の対立を克服して統一民法典を実現することは,革命期諸議会の重要な課題であった。具体的には国民公会期に三つのカンバセレス草案やジャクミノ草案が提出され,それぞれ市民革命の所産にふさわしい特徴を有していたが,いずれも未成立に終わった。1800年8月,トロンシェF.D.Tronchet,ポルタリスJ.É.M.Portalis,マルビルJ.Maleville,ビゴ・ド・プレアムヌーF.J.J.Bigot de Préameneuの4人が起草委員に任命され,4ヵ月後に草案が作成された。同草案は,裁判所の意見を徴したのち,コンセイユ・デタにおいてナポレオンも加わって審議され,政府法案とされた。この法案に対しては議会の一院である護民院で批判があったが,議会を改組するなどの政治的介入を経て,03年3月から1章ずつ審議・採択された。それを一個の法典としてまとめたのが,04年の法律である。

 法典は,2281条からなる。初めの6条は法律の一般的効力に関する〈前加章〉で,第7条以下が大きく3編に分かれる。これは,ドイツ民法や日本民法の5編構成(パンデクテン方式)と異なる4編構成(インスティトゥティオネス方式)から訴権に関する編を分離したもので,後者の系譜に属する。第1編は〈人〉(7~515条),第2編は〈財産および所有権のさまざまな変容〉(516~710条),第3編は〈所有権を取得するさまざまな仕方〉(711~2281条)と題されている。これを模式的にみれば,人(権利の主体),物(権利の客体),契約(権利の変動)を3本の柱とした構成であって,その意味で近代市民法の論理構造によく適合した形態であるということができる。

 第1編は,私権の享有・剝奪,身分証書,住所,生死不明,婚姻,離婚父子関係・親子関係,養子縁組・非公式後見,親権,未成年・後見・未成年解放,成年・禁治産・保佐に関する11章からなる。〈民事的権利の行使は,政治的権利の行使から独立である〉(7条)として市民社会と政治国家の分離を明らかにした規定や,〈同意がないときは,婚姻はない〉(146条)として婚姻の契約的性格を定めた規定が注目される。

 第2編は,財産の区別,所有権,用益権・使用権・居住権,地役=土地役務の4章からなり,近代的所有権の絶対性を宣言した〈所有権は,物を最も絶対的な仕方で収益し,処分する権利である〉(544条)という規定がとりわけ有名であるが,成立当時の農業・手工業中心の社会を反映した財物観念が色濃くみられることも興味深い

 第3編は,相続,生存者間の贈与・遺贈,契約=合意による債務一般,合意なしに形成される債務,夫婦財産契約・夫婦財産制,売買,交換,賃貸借契約,組合,貸借(使用貸借・消費貸借),寄託・係争物寄託,射倖契約,委任,保証,和解,仲裁契約,質,先取特権抵当権強制徴収・債権者間の順位,時効・占有の20章からなる。いわゆる債権法の領域に属する事項のほか,所有権の変動にかかわる制度として相続,夫婦財産制,担保物権,時効,占有などの規定を広く含んでいることが特徴的である。よく知られる規定として,意思自治の原則を定めた第1134条(〈適法に形成された合意は,それを行った者に対しては,法律に代わる〉),過失責任主義の原則を定めた第1382条(〈他人に損害を生じる人の行為はいかなるものであっても,過失によってそれをもたらした者に,それを賠償する義務を負わせる〉),動産に関して公信の原則を定めた第2279条(〈動産に関しては,占有は,権原に値する〉)などをあげることができる。

 制定から180余年を経た今日,ナポレオン法典の内容は部分的にではあれ大きな変化を遂げている。第2編においてはよく原型をとどめているものの,第1編では11章のうち〈離婚〉以下の7章が章単位で全面的に新規定に置き換えられ,第3編では2章が同様に全面改正されたほか,2章が新たに追加された。このことは,法典の具体的内容が社会関係の進展に対応しえなくなることを意味すると同時に,ナポレオン法典をあくまでも現行法典として維持しようとするフランス国民の限りない愛着を物語るものであろう。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ナポレオン法典」の意味・わかりやすい解説

ナポレオン法典
なぽれおんほうてん
Code Napoléon

ナポレオンが4人の編纂(へんさん)委員(トロンシェ、ビゴ・ド・プレアムヌー、マルビル、ポルタリス)に起草を命じ、強大な政治力を利用して制定したフランス民法典。1804年公布。3編2281条(1975年に2か条付加されて現在は2283条)からなる。この法典のとっている所有権の絶対性、契約自由の原則、過失責任主義などの立場は、近代市民法の基本的原理として、その後に制定された各国の民法典の模範となった。日本の現行民法にもナポレオン法典は旧民法を通じて強い影響を与えている。制定以後、さまざまな立法による修正や判例法による補充を受けてきたが(ことに家族に関する部分は1960年以降の数次の改正で全面的に改まっている)、法典そのものは今日でも生き続けている。なお、ナポレオン法典という名称は、まだ廃止されていないが、19世紀末ごろから「民法典」Code civilという名称が公式にも用いられるようになってきており、今日ではこの名称を用いるほうが普通である。

 また、ナポレオンの制定した五つの法典(民法典のほか、商法典、民事訴訟法典、刑法典、刑事訴訟法典)を総称してナポレオン法典とよぶこともある。

[高橋康之]

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百科事典マイペディア 「ナポレオン法典」の意味・わかりやすい解説

ナポレオン法典【ナポレオンほうてん】

ナポレオン1世治下に制定された5法典(民,商,民訴,刑,刑訴)。普通はこのうちフランス民法典のみをさす。〈コード・ナポレオン〉といい,この呼称は1807年同民法典の正称とされたが,今日では〈コード・シビル〉の名称が公に用いられる。
→関連項目注釈学派ナポレオン[1世]ナポレオン戦争ライン同盟

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ナポレオン法典」の意味・わかりやすい解説

ナポレオン法典
ナポレオンほうてん
Code Napoléon; codes napoléoniens

1804年3月 21日の「フランス人の民法典」。ナポレオン1世は 07年の法律により,これにみずからの名を冠し Code Napoléonとした。またナポレオン1世治下に制定された5法典 (民法,商法,民事訴訟法,刑法,治罪法) を総称して codes napoléoniensと呼ぶこともある。民法典は近代資本主義の要請を満たす近代市民法典の先駆として,ヨーロッパをはじめ世界の国々の法典の模範となった。その特色は個人主義,自由主義の原理に貫かれている点にあり,所有権の絶対 (544条) ,契約の自由 (1134条) ,過失責任 (1382条) の諸原理にそれがよく表われている。全文 2281条から成り,人,物,債権債務という『法学提要』式の編別をとっている。文体,規範内容が簡潔,明白で市民生活に親しみやすく,多くの改正が加えられたとはいえ,フランスの現行民法典として存続している。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ナポレオン法典」の解説

ナポレオン法典(ナポレオンほうてん)
Code Napoléon

ナポレオンの指導下に,編纂,公布された民法典。フランスの統一的民法典は,革命期から編纂事業が進められ,統領政府時代の1804年3月に,「フランス人の民法典」として公布され,第一帝政期の07年にその公式名称を「ナポレオン法典」と改めた。全文2281カ条,身分編,財産編,財産取得編の3編からなり,全体を通じての基本原則は,私的所有権の絶対,個人意志の自由,家族の尊重の3者であるといわれ,ブルジョワ革命の成果たる近代市民社会の法原理を最も的確に表現している。部分的改正をへて,現行フランス民法典に連続しているとともに,全世界の近代市民法秩序に多大な影響を及ぼした。

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旺文社世界史事典 三訂版 「ナポレオン法典」の解説

ナポレオン法典
ナポレオンほうてん
Code Napoléon

1804年3月,ナポレオン1世が第一統領時代に公布した民法典
3編2281条からなる。従来,慣習にしかすぎなかった民法を統一し,市民革命の成果を含め,個人主義・自由主義に立脚して,法の前の平等,思想・信仰の自由,財産権の不可侵など市民社会の基本原理を規定した。のち,民事訴訟法・刑事訴訟法・商法・刑法を追加して1811年に完成し,さらに部分的改定をへて現行の法典に至る。近代諸国家の民法の模範となっており,ナポレオン自身も自己の最大の業績とみなしていた。『ハンムラビ法典』や『ユスティニアヌス法典』とともに世界の三大法典といわれる。

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世界大百科事典(旧版)内のナポレオン法典の言及

【相続】より


[市民革命と相続法]
 フランスについて見るならば,ローマ法に従った南部成文法諸地域の相続法とゲルマン法に属した北部慣習法諸地域のそれとの対立がアンシャン・レジーム下の法のあり方の基本的特徴であった。1789年の革命は,相続法の全国的統一をはかり,その内容の近代化を進めるうえで最大の画期をなし,その成果は,1804年のナポレオン法典に継承された。まず,封建制の廃棄によって封地と自由地の区分が否定されたことから,財産の性質・由来等に基礎をおく相続原理が廃止され,他方,長男子相続権が否定されて男女平等の共同相続原理に一元化された。…

【法典編纂】より

…国家による体系的・組織的な成文法規の作成をいい,社会の変動に応じて個々の法律や慣習などを整理統一する目的で行われる場合もあるが,とくに革命などの政治的大変動ののちには新しい法原理に基づく大規模な法典編纂が行われる。19世紀初頭の〈ナポレオン法典〉は,市民法典の先駆として歴史的に有名であり,ヨーロッパ大陸諸国をはじめドイツや日本の法典編纂にも大きな影響を与えた。
[ヨーロッパ]
 抽象的法原理,法命題を含む包括的体系的な立法をもって法典編纂の定義とすれば,かかる法典編纂の第一波はヨーロッパでは18世紀に到来した。…

【ポティエ】より

…学風は,同時代のドイツなどの自然法学派の影響や彼独自の哲学といったものはなく,現実主義・実用主義的傾向が強かった。数多くの概説書を書いて私法に関する広範囲の諸問題に総合的・体系的に検討を加え,のちの民法典(ナポレオン法典)の編纂にドマと並んで大きな影響を与えた。とくに債務法の諸条項は彼の著作を基礎としているといわれている。…

【ラテン・アメリカ】より

… 他の法分野,例えば民・商法,刑法,訴訟法などでは,西ヨーロッパ諸国の影響は圧倒的であるが,その影響のしかたは複雑である。法体制準備期においては,ほかに模範とすべきものがほとんどなかったこともあって,フランス法への傾倒がみられ,とくにナポレオン法典(民法典)は,直接,間接にラテン・アメリカ諸国の私法に多大な影響を与えた。その後,西ヨーロッパ諸国における法典編纂が進むにつれて,イタリア,スペイン,ドイツ,スイスの法も比較法的な取捨選択によって受容され,あるいは接木され,そうしてできた良法典がまた,他のラテン・アメリカ諸国における立法の模範とされた例も多い。…

※「ナポレオン法典」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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