ドロステヒュルスホフ(英語表記)Annette von Droste-Hülshoff

精選版 日本国語大辞典 「ドロステヒュルスホフ」の意味・読み・例文・類語

ドロステ‐ヒュルスホフ

  1. ( Annette von Droste-Hülshoff アンネッテ=フォン━ ) ドイツの女流詩人。ウエストファーレンの風土の中でカトリック信仰に生き、多くの宗教詩、短編小説ユダヤ人のぶなの木」などを書いた。(一七九七‐一八四八

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「ドロステヒュルスホフ」の意味・わかりやすい解説

ドロステ・ヒュルスホフ
Annette von Droste-Hülshoff
生没年:1797-1848

ドイツの詩人。ウェストファーレンの古い男爵家の娘として生まれ,ボーデン湖畔の館で世を終えるまで,外面的には格別の波乱を経験することもなしに,独身のままほぼ平穏な生涯を送った。しかし外部生活が静かだっただけ,内向した思念奥行きは一層深められ,そこから数々の精妙な作品が生み出された。敬虔なカトリック信者として宗教詩の類も多く書いたが,何よりも,自然の形象をその細部にいたるまで丹念に確かめながら,細密画の風景のように表現する手法が特徴的である。しかも確かめられ定着された風景は,表面の静けさの下に,世界と生の深みの暗い不気味な消息をうかがわせている。その意味で,時代に先んじて象徴主義的な詩風を予告しているといえる。小説《ユダヤ人のブナの木》(1842)も一見自然主義風な悲惨物語だが,厳しく引き締まった描写の底に人生への深遠な観想を秘めた傑作である。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ドロステヒュルスホフ」の意味・わかりやすい解説

ドロステ・ヒュルスホフ
どろすてひゅるすほふ
Annette von Droste-Hülshoff
(1797―1848)

ドイツの女流詩人。ウェストファーレンの古い貴族の家に生まれ、読書や知識人との交友教養を積み、文筆活動に入る。病苦と周囲の無理解に耐え、時流を超える独自の詩作を続け、ボーデン湖畔のメールスブルクで孤独な生涯を閉じた。懐疑と不安に襲われながら、信仰の苦悩を披瀝(ひれき)する死後刊行の宗教詩『宗教の一年』(1851)が代表作。現象の奥に神秘的な力の支配を予感させる自然詩やバラードは、きわめて高い芸術的完成度を示している。故郷の犯罪事件に取材した短編小説『ユダヤ人の橅(ぶな)』(1842)は、犯罪の心理的、社会的要因を克明につく反面、人知を超える魔的な力や神の摂理が暗示され、キリスト教的寛容を訴える作者の敬虔(けいけん)な意図がうかがわれる。

[杉本正哉]

『番匠谷英一訳『ユダヤ人の橅の木』(岩波文庫)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ドロステヒュルスホフ」の意味・わかりやすい解説

ドロステ=ヒュルスホフ
Droste-Hülshoff, Annette (Elisabeth) von

[生]1797.1.10. ミュンスター近郊ヒュルスホフ
[没]1848.5.24. メールスブルク
ドイツの女流詩人。カトリックの貴族の家系に生れ,400年に及ぶ一族の居城で育った。 1826年父の死後リッシュハウスに住み,41年ボーデン湖畔のメールスブルク城に移る。信仰と懐疑の間の苦闘を示す宗教詩『教会の暦』 Das geistliche Jahr (1851) には真摯痛切な響きがあり,年下の作家 L.シュッキングに寄せる実らぬ慕情は数々の恋愛詩や自然抒情詩を生み出した。『詩集』 Gedichte (38) ,短編小説『ユダヤ人のぶなの木』 Die Judenbuche (42) がある。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「ドロステヒュルスホフ」の意味・わかりやすい解説

ドロステ・ヒュルスホフ

ドイツの女性詩人。貴族出身。一生独身で過ごし,多くの恋愛詩や抒情詩を書いた。散文《ユダヤ人のブナの木》はカトリック的倫理感と力強い描写力が特色で,近代リアリズムへの道を示している。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

今日のキーワード

プラチナキャリア

年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...

プラチナキャリアの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android