ナルキッソス(読み)なるきっそす(英語表記)Narkissos

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ナルキッソス」の意味・わかりやすい解説

ナルキッソス
なるきっそす
Narkissos

ギリシア神話の美少年。英語はナルシッサスNarcissus、フランス語はナルシスNarcisse。ボイオティア河神ケフィソスとニンフのレイリオペの子。早くからその美貌(びぼう)はニンフたちに愛されるほどであったが、水に映る自分の姿に見とれてとうとうスイセンナルキッソス)になったという。これは花の由来を説明する民間説話であるが、さまざまな伝承があったなかでもよく知られているのは、オウィディウスの『変身物語』によるものであろう。

 美少年のナルキッソスはだれからも愛され、慕われていたが、すべて冷淡に拒否していた。ニンフのエコー恋慕の情を募らせていたが、かえって彼に辱められ、絶望のあまり森の奥に隠れてしまった。そして憔悴(しょうすい)しきった彼女はついに骨と皮だけになり、声だけが残ったという。エコーのほかにもつれないナルキッソスを恨む者は多く、そのうちの1人は神々に、彼自身もこのように恋い焦がれながらも報われることのないようにと祈った。この願いは女神ネメシスが聞き入れた。ある日、ナルキッソスは狩りに疲れて泉で水を飲んでいたが、水に映る美しい姿に気づいて、たちまち心を奪われてしまった。そして見ているものが自分ともわからぬまま恋い焦がれていき、憔悴した彼はやがて息絶える。ニンフたちは悲しんで葬儀準備をした。しかしナルキッソスの死骸(しがい)はみえず、そのかわりに1本のスイセンの花をみつけたという。一説には、彼の姉妹が死んで、たまたま水面に映る自分の姿を姉妹と思い込んでしまったとか、彼は殺されてしまい、その血からスイセンが生じたともいわれる。この神話からのちにナルシシズムという精神分析用語が生まれ、一般的には自己愛を意味する。

[伊藤照夫]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ナルキッソス」の意味・わかりやすい解説

ナルキッソス
Narkissos

ギリシア神話の美青年。ケフィソス川の河神とニンフのリリオペの子で,出生時にテイレシアスによって,自分の姿を見なければ長生きできると予言された。多くの女やニンフたちに求愛されたが,すべてにべもなくはねつけた。失恋したニンフの一人エコーが,憔悴してただ声だけの存在になってしまったので,ついに神々の怒りを買い復讐の女神ネメシスの罰を受けて,泉に映った自分の姿に恋し,その場を離れられなくなって死に,水辺に生えるスイセンに変った。死後冥府で,ステュクスの水に映る自分の姿に見惚れ続けているという。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

マイナ保険証

マイナンバーカードを健康保険証として利用できるようにしたもの。マイナポータルなどで利用登録が必要。令和3年(2021)10月から本格運用開始。マイナンバー保険証。マイナンバーカード健康保険証。...

マイナ保険証の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android