ギリシア神話の美少年。英語はナルシッサスNarcissus、フランス語はナルシスNarcisse。ボイオティアの河神ケフィソスとニンフのレイリオペの子。早くからその美貌(びぼう)はニンフたちに愛されるほどであったが、水に映る自分の姿に見とれてとうとうスイセン(ナルキッソス)になったという。これは花の由来を説明する民間説話であるが、さまざまな伝承があったなかでもよく知られているのは、オウィディウスの『変身物語』によるものであろう。
美少年のナルキッソスはだれからも愛され、慕われていたが、すべて冷淡に拒否していた。ニンフのエコーも恋慕の情を募らせていたが、かえって彼に辱められ、絶望のあまり森の奥に隠れてしまった。そして憔悴(しょうすい)しきった彼女はついに骨と皮だけになり、声だけが残ったという。エコーのほかにもつれないナルキッソスを恨む者は多く、そのうちの1人は神々に、彼自身もこのように恋い焦がれながらも報われることのないようにと祈った。この願いは女神ネメシスが聞き入れた。ある日、ナルキッソスは狩りに疲れて泉で水を飲んでいたが、水に映る美しい姿に気づいて、たちまち心を奪われてしまった。そして見ているものが自分ともわからぬまま恋い焦がれていき、憔悴した彼はやがて息絶える。ニンフたちは悲しんで葬儀の準備をした。しかしナルキッソスの死骸(しがい)はみえず、そのかわりに1本のスイセンの花をみつけたという。一説には、彼の姉妹が死んで、たまたま水面に映る自分の姿を姉妹と思い込んでしまったとか、彼は殺されてしまい、その血からスイセンが生じたともいわれる。この神話からのちにナルシシズムという精神分析用語が生まれ、一般的には自己愛を意味する。
[伊藤照夫]
ギリシア伝説の美少年。その名は〈水仙〉の意。フランス語ではナルシスNarcisse。多くの乙女やニンフのエコーたちから求愛されたが,そのすべてをすげなくしりぞけた。これを恨んだひとりが,彼も恋の苦しみを味わうようにと復讐の女神ネメシスに祈ると,ナルキッソスは泉に映った自分の姿に恋し,想いが満たされぬまま,やつれはてて水仙の花に化したという。ローマ詩人オウィディウスの《転身物語》で有名なこの話は,中世には,うぬぼれを待ちうける運命の教訓として用いられた。また哀れを誘う彼の最期は多数の芸術家の心をとらえ,伝カラバッジョ(16世紀),プッサン(17世紀),ターナー(19世紀)らの絵画,チェリーニ(16世紀)の彫刻などを生んだ。精神分析で自己愛を指していうナルシシズムは,上記の物語にちなむものである。
執筆者:水谷 智洋
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…ただし,S.フロイトによると,この〈異性愛〉もはじめからそういうものとして成立するのではなく,幼児が自分の指を吸う行為などにみられるように,まず自分自身の身体を対象とする〈自体愛(オートエロティズム)〉として芽生えたのち,自己という存在全体にむけられて〈自己愛〉へとすすむ。水面に映った自分の姿にあこがれ,水に落ちておぼれ死ぬギリシア神話の美少年ナルキッソスの場合がこれで,その名にちなみ,〈ナルシシズム〉とも呼ばれるが,成長後も,ある種の神経症や精神病では,退行してこの状態を再現することがある。ふつうは自他の分離の完成とともに,自分以外の他者が愛の対象として選ばれるようになるが,その場合でも〈同性愛〉の段階をへて初めて〈異性愛〉という最終的な愛の様態に到達する。…
…オウィディウスの《転身物語》によれば,彼女は女神ヘラが夫ゼウスの浮気の現場を押さえるのを何度も妨害したため,ヘラによってみずから発言する能力を奪われ,耳にした他人のことばを繰り返すだけの身にされた。その後,彼女は美少年ナルキッソスに恋したが,顧みられなかったので,憔悴(しようすい)のあまり身はやせ細り,ついには声だけになったという。【水谷 智洋】。…
…切花用に温度処理などで促成栽培もされる。【堀中 明】
[名称の由来]
スイセンの属名ナルキッススは,ギリシア神話に語られる美少年ナルキッソスにちなんだものである。オウィディウスによれば,ナルキッソスは多くの娘に言い寄られたが,それをことごとく拒絶した。…
※「ナルキッソス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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