日本大百科全書(ニッポニカ) 「ナーガラクルターガマ」の意味・わかりやすい解説
ナーガラクルターガマ
なーがらくるたーがま
Nāgarakěrtāgama
インドネシア、ジャワ島の頌徳(しょうとく)詩。ジャワのマジャパヒト王国のハヤム・ウルクHayam Wuruk(?―1389。在位1350~89)に捧(ささ)げるために、1365年に宮廷付きの僧侶(そうりょ)であり詩人でもあったプラパンチャPrapacaにより古ジャワ語で書かれたもの。もとの題名はデシャ・ワルナナDesha Warnana(『王国の記述』)であったが、のちバリ島の写本作成者がつけたこの題名(意味は「王国のよき秩序に関する教えの書」)により知られるようになった。現存するテキストとしては、19世紀にロンボク島で発見されたものが唯一のものであったが、最近新しい写本が発見されている。
本書は全体として98編の詩からなっているが、一部の歴史的記述を除けば、1350年から64年までの期間の首都であるマジャパヒトの記述をはじめ、国王ハヤム・ウルクの各地への行幸、宰相ガジャ・マダGajah Madaの死、領土の記述、またマジャパヒトの宮廷における年中行事などが述べられている。したがって、本書はマジャパヒト王国の歴史に関する根本史料の一つではあるが、本来は国王の精神的地位を高めることを祈願して書かれた頌徳詩であるという性質上、その取扱いには細心の注意が必要であり、同時代の碑文や漢文史料との対比は欠かすことができない。
[生田 滋]