翻訳|neoteny
幼形成熟pedogenesisともいう。動物が幼形を保ったまま性的成熟に達し生殖を行う現象。生殖器官に比べからだの発育が相対的に遅れるために起こるもので,幼生生殖とは異なる。メキシコサンショウウオAmbystoma mexicanum(アホロートルaxolotlと呼ばれる)は原産地のメキシコの泉や湖ではえらをもち,変態しない状態で生殖するが,1865年にパリの植物園で飼われた個体が変態し,水がとぼしいなどの環境では変態して陸に上がることが知られた。つまり原産地のものは幼生形すなわちネオテニー形であり,これに甲状腺ホルモンを補給すると変態が起こる。サンショウウオおよびイモリの仲間(有尾両生類)には終生えらをもつなど幼生的な形態を示す種がいろいろある(いずれも北アメリカ産でテキサスホライモリTyphlomolge rathbuni,マッドパピーNecturus,えらを体内にもつアンヒューマAmphiuma means)。これらはネオテニー形が固定したものと解釈することもできる。このようなことからネオテニーはしばしば進化の要因として注目されている。原始的と思われる多足類の幼形には体節が少なく足は3対のものがあるなどのことから,昆虫類は多足類のネオテニー形とされる。腸鰓(ちようさい)類(ギボシムシの類)は棘皮(きよくひ)動物のネオテニー形といわれることがあり,これは両者の幼生の比較およびそれぞれでの幼生と成体の比較にもとづいている。ヒトの進化に関するL.ボルクの胎児化説もネオテニー説の一種である。日本の進化学者では徳田御稔(《進化論》1951,その他)がとくにネオテニーに注目をはらった。
執筆者:八杉 龍一
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動物が幼虫あるいは幼生の形のままで生殖可能な状態になること。幼形成熟、幼態成熟ともいう。たとえばアホロートル(メキシコサンショウウオ)の幼生は変態せず、えらを出した状態で生殖可能となる。このほかに現生の動物のネオテニーの例がいくつか知られている。これらは単に個体発生の変形の例を示すというより、進化の過程で新しい動物が出現する仕組みを示すものと考えられている。例として脊椎(せきつい)動物の起源がある。原索動物のホヤの幼生はオタマジャクシ型で脊索をもち遊泳生活をしているが、変態後定着生活をする成熟したホヤは痕跡(こんせき)的な脊索しかもたない。ホヤの仲間から、ネオテニーにより脊索をもち遊泳生活を送る幼生形を維持しながら成熟可能になったものが現れ、それから魚類が生じたという考え方がある。
[竹内重夫]
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(垂水雄二 科学ジャーナリスト / 2007年)
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…その直接の子孫である両生類では,幼生(オタマジャクシ)はえら(カエルは内鰓,イモリとサンショウウオは外鰓)で水呼吸をするが,変態して両生化するにつれてえらは退化していき,それに代わって肺が発生し,やがて肺呼吸に頼るようになる。もっとも,えらが消失しても肺は発生せず,外呼吸は皮膚だけに頼るもの(ハコネサンショウウオ,アメリカサンショウウオ)や,天然状態では生殖可能になりながらもえらを終生維持し(この現象をネオテニーという),水呼吸を続けるもの(エゾサンショウウオ,メキシコサンショウウオ∥別名アホロートル)が知られている。現生の肺魚類は水呼吸のためのえらと空気呼吸のための肺をともに備えている。…
…早春にかなり深い水中に50個ほどを産卵する。幼生は発達した3対の外鰓(がいさい)をもったまま12cmほどに成長し,同属のメキシコサンショウウオA.mexicanumの幼生(アホロートル)と同様,高地の湖などの環境条件におかれると幼形成熟(ネオテニー)を行い,同じくアホロートルと呼ばれることもある。トラフサンショウウオ科にはトラフサンショウウオ属など2属32種ほどがカナダからメキシコまで分布している。…
※「ネオテニー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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