ノイバラ(読み)のいばら

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ノイバラ」の意味・わかりやすい解説

ノイバラ
のいばら / 野茨

バラ科(APG分類:バラ科)バラ属Rosaノバラと同意義であるが、とくにRosa multiflora Thunb.、R. polyantha Sieb. et Zucc.、R. intermedia Carr.、R. wichurae Koch.、R. multiflora Thunb. var. calva Fr. et Sav.、R. multiflora Thunb. var. adenophylla Fr. et Sav.をノイバラと通称している。日本、朝鮮半島、台湾に自生する。川沿いや湿地に多いが、耐暑性、耐寒性が強く、乾燥にも強いので、至る所に生える。

 落葉低木で、枝は直立または半直立であるが、他物に寄りかかり、よじ登る習性がある。刺(とげ)はやや鉤(かぎ)形でひっかかる。まれに刺のないものもある。葉は羽状複葉で、5~9枚の小葉よりなり、先頭の小葉はかならずやや大きい。小葉の形は倒卵状長楕円(ちょうだえん)形で先は急にとがり、長さ1.5~5センチメートル、鋸歯(きょし)ははっきりしている。托葉(たくよう)は葉柄に合着して耳角があり、縁片に腺毛(せんもう)があり支裂や分裂が激しいものがある。葉面は半光沢から無光沢であるが、北海道、東北地方の日本海側には光沢のあるものがある。下面と葉軸には絨毛(じゅうもう)がある。小花柄は長さ1~1.5センチメートル。花序の軸、花柄、小花柄、萼(がく)に軟毛、絨毛、腺毛がある。花は5~6月、円錐(えんすい)花序に多数つく。白色で、花径2~3センチメートル、花弁は5枚、凹頭の倒卵形である。雄しべは多数、葯(やく)は黄色、花柱は有毛である。果実球形で径0.7~1センチメートル、秋に赤く熟す。染色体数は2n=14で、野生種には倍数体はないようである。古生物としては兵庫県明石(あかし)から三木茂が1936年(昭和11)9月に発表した標本があり、鮮新世のものとされている。ノイバラには刺がある植物という意味を含めて、シロイバラ、アガリグイ、アオグイ、グイ、カタラ、シロイチ、コモチイバラ、サンヤニンドウ、シロバラ、ニンドウイバラ、オンナイバラ、ヨメグイなど別称が多い。このグイとは刺のことである。

鈴木省三 2020年1月21日]

薬用

なかば赤くなった未熟果実(偽果)の乾燥したものを漢方では営実(えいじつ)、薔薇子(しょうびし)と称する(局方名ではエイジツ)。日本では瀉下(しゃげ)、利尿剤として便秘、浮腫(ふしゅ)の治療に用いているが、中国では利尿、解熱、解毒剤として浮腫、小便不利、腫(は)れ物などの治療に用いる。テリハノイバラR. luciae Franch. et Rochebr.(R. wichuraiana Crep.)の偽果も同様に用いる。なお、中国では偽果以外に花、葉、枝、根も薬用とする。

[長沢元夫 2020年1月21日]


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改訂新版 世界大百科事典 「ノイバラ」の意味・わかりやすい解説

ノイバラ
Rosa multiflora Thunb.

北海道から九州までの野原川原,山すそなどに見られるバラ科の落葉低木で,最も普通な野生のバラ。茎はよく枝分れをして,直立または斜上し,ときにつる状になり,とげがある。葉は互生し,羽状複葉。小葉は7~9枚,卵形または長楕円形で,長さ2~5cm。花は5~6月ごろ,茎頂に円錐花序をなして咲き,花冠は径2cm内外,花弁は心臓形または倒卵形で,普通は白いが,ときに淡紅色のこともある。おしべは多数,果実(偽果)は球形で,秋から冬にかけて赤く熟する。果実は日本の民間薬で,営実(えいじつ)と称される。フラボン配糖体を含み,瀉下(しやげ)薬として1日2~5gを煎用する。

 日本には,ノイバラのほかに,野生のバラが10種ほど知られている。そのうち,本州,四国および九州で,ノイバラとならんで普通にみられるのがテリハノイバラR.wichuraiana Crép.(英名memorial rose)で,茎ははい,葉はより厚く光沢があり,花はノイバラより大きく径3cmになり,海岸や荒地に多い。関東地方西部以西と四国の山地に生えるフジイバラ,九州まで分布するモリイバラ,近畿地方,四国および九州の太平洋側に多いヤブイバラニオイイバラともいう),それに北陸,近畿および中国地方と四国や九州の北部にあるミヤコイバラは互いによく似ており,別種にされることもあるが,R.luciae Franch.et Rochebr.にまとめられて,それぞれ変種として取り扱われることもある。そのほか,低地に生えて花の大きいものにヤマイバラR.sambucina Koidz.があり,本州中部地方南部から九州まで分布するが,多くない。以上は,花の白い野生バラであるが,紅色の花が咲くもののなかには,高山に生えるオオタカネバラR.acicularis Lindl.と,その変種のタカネバラvar.nipponensis Koehneがあり,前者は北海道と本州中北部に,後者は本州中部と四国の山地に分布する。サンショウバラR.hirtula Nakaiは,名のごとく葉がサンショウに似ており,やはり淡紅色の花を開き,野生のバラとしては分布範囲が狭く,神奈川,山梨および静岡県に生じ,箱根のあたりではよく目につく。四国の南部などで大きな白い花の咲くナニワイバラR.laevigata Michx.(英名Cherokee rose)は,通常生垣などに利用されているが,所によって野生化している。
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百科事典マイペディア 「ノイバラ」の意味・わかりやすい解説

ノイバラ

ノバラとも。北海道〜九州の山野に多いバラ科の落葉低木。枝にはとげがある。葉は楕円形の小葉7〜9枚からなる羽状複葉で,葉柄,葉の裏面には軟毛がある。晩春,短枝の頂に径約2cm,白色5弁の花を円錐状に多数つける。果実は卵円形で長さ約7mm,赤熟する。テリハノイバラとともに観賞用のバラの改良のため交雑に用いられた。日本産の野バラにはほかにタカネバラサンショウバラハマナス,フジイバラ,ヤマイバラなど10余種がある。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ノイバラ」の意味・わかりやすい解説

ノイバラ(野薔薇)
ノイバラ
Rosa multiflora

バラ科の落葉小低木で,ノバラともいう。日本各地の山野に普通に生える。茎は高さ約 2m,枝は伸びて先は垂れ,鋭いとげがあってよく他物にまつわりつく。葉は1~4対の小葉から成る奇数羽状複葉で互生し,裏面に軟毛がある。葉の基部にある托葉は縁が櫛の歯のようになっている。春から夏に,枝先に円錐花序を出し,径約2~3cmの白色5弁の花をつける。花はときに淡紅色を帯びる。果実は球形の偽果で,赤く熟し,それを干したものを営実 (えいじつ) といい,漢方で下剤や利尿剤に用いる。近縁種に花がやや大きく,小葉が深緑色で光沢のあるテリハノイバラ R. wichuraianaがある。いずれもじょうぶで繁殖もよいので,園芸品種のバラの接木 (つぎき) の台木としてよく用いられる。

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世界大百科事典(旧版)内のノイバラの言及

【バラ(薔薇)】より

…瘦果(そうか)は肉質の花床に包まれる。北半球の亜寒帯から熱帯山地にかけて分布し,日本にはノイバラ,テリハノイバラ,ヤマイバラ,タカネバラ,サンショウバラ,ナニワイバラ,ハマナス(イラスト)など十数種が野生する。
[昔の園芸種とその原種]
 ギリシア・ローマ時代には,西アジアからヨーロッパ域の野生バラや,それの自然交雑と推定される花の目だつ変り物がよく栽培されていた。…

※「ノイバラ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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