翻訳|aphorism
文学形式の一つで,思考や観察の結果を簡潔な形で,皮肉に,しんらつに,諧謔的に述べたもの。警句あるいは箴言,金言,格言などと訳される。〈分離する〉を意味するギリシア語aphorizeinを語源とし,ヒッポクラテスが医学上の処方を記した《アフォリスモイ》に始まる。元来,実用的な指示や助言を伝える,それぞれが〈分離した〉簡明な文言を指していたが,ルネサンスのころより人間の性格や処世上の教訓を述べる際にも用いられるようになった。文学形式として定まったのは,パスカルの《パンセ》,ラ・ロシュフーコーの《箴言》などが出た17世紀以後である。知性に加えて鋭い言語感覚を備えた思想家,作家,詩人たちがこの形式を愛好した。フランスのモラリストたち,ドイツ・ロマン派のほか,F.ベーコン,グラシアン,リヒテンベルク,ショーペンハウアー,ニーチェ,K.クラウスらが著名である。日本の近代文学では芥川竜之介の《侏儒の言葉》,萩原朔太郎の《虚妄の正義》などを挙げることができる。
→エピグラム
執筆者:池内 紀
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
警句、箴言(しんげん)、金言。語源であるギリシア語のaphorismosは定義の意味で、ギリシアの医学者ヒポクラテスが、病気の診断、治療法を簡潔に述べたものをアフォリズムと初めてよんだ。有名な例は「人生は短く、人為は長く、機会は逃げやすく、実験は危険を伴い、論証はむずかしい。医師は正しと思うことをなすだけでなく、患者や看護人や外的状況に助けられることが必要である」であり、後世、始めの部分だけを普遍的な警句「芸術は長く、人生は短し」と改変したのである。こうしてアフォリズムは簡潔要を得た表現で人生の機微を写すものとなり、エピグラムや格言(プロバーブ)とさして変わらぬものとなった。しかし、言い伝えられてきた諺(ことわざ)や処世訓と異なり、作者独自の個性的な機知に富んだ表現であって、フランスのモラリストに愛好され、ラ・ロシュフコーやラ・ブリュイエールらによって優れた作品が生まれた。日本でも芥川龍之介(あくたがわりゅうのすけ)の『侏儒(しゅじゅ)の言葉』がよい例といえる。
[船戸英夫]
(2013-5-16)
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