改訂新版 世界大百科事典 「ノキシノブ」の意味・わかりやすい解説
ノキシノブ
Lepisorus thunbergianus (Kaulf.) Ching
ウラボシ科の常緑多年生シダ植物。北海道南部以南の平地や山地に普通に見られ,通常樹幹や岩上等に着生する。屋根の軒に生えるのでこの名がついた。中国からヒマラヤにかけて分布するが,この地域にあるノキシノブ属の分類についてはまだ研究すべき問題が多い。根茎には直径2~3mm,長さ3~4mmの細い鱗片がある。葉はやや密に出て,革質,長さ8~25cm,先端は鋭尖頭から尾状,中肋付近に格子状の小さい鱗片がまばらに残る。胞子囊群は葉の中肋と辺縁の中間もしくはやや中肋寄りに生じ,大型で,若い時は盾状の鱗片で密におおわれる。胞子は晩秋から初冬に熟し,二面体形で,黄色。円形の胞子囊群が目玉のように並ぶことからヤツメランとも呼ばれる。変異が多く,山地の木陰等には四倍体が,低地の日なたには二倍体が多く見られるほか,葉の先端が尾状に分裂したシシノキシノブ,葉の側縁に羽状の突起があるハゴロモノキシノブ等の奇形は観賞用に栽培されることがある。中国では全草を煎じて淋病の薬にする。栽培はミズゴケだけでよい。近縁種に北海道西部以南にあるヒメノキシノブや紀伊半島南部,四国山地,中国山地のツクシノキシノブ,北海道から中部,近畿の温帯域にあるミヤマノキシノブ等があり,標高や緯度によるすみわけが見られる。
執筆者:光田 重幸
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報