ノボタン

改訂新版 世界大百科事典 「ノボタン」の意味・わかりやすい解説

ノボタン

園芸上,ノボタンと呼ばれるものには,ノボタン科のノボタン属Melastomaとティボウキナ属Tibouchinaのものがあり,この両属を混同してノボタンと呼んでいることが多い。ノボタン属は熱帯アジアからオーストラリアに約40種を産し,果実は液果となる。他方,ティボウキナ属は熱帯アメリカを中心に300種以上を産し,果実は蒴果(さくか)になることで区別される。いずれも低木で,美しい花をつけるものがあり,観賞用に熱帯で広く栽培され,温室花木にもされる。ノボタンM.candidum D.Donは,奄美大島からベトナムにかけて自生する高さ1.5mほどの低木。枝は四稜角で灰白色の毛でおおわれる。葉は卵形で先がとがり,表裏には短く荒い毛が生える。花は3~7個の集散花序で,ばら色の花弁の長さは4~5cm,萼も灰色の短毛でおおわれる。メラストマ・マラバスリクムM.malabathricum L.はインドからオーストラリアにまで広く分布し,前種に似た桃色の花をつける。若芽や果実が食用とされ,路傍などにごく普通にみられる種である。シコンノボタンT.urvilleanaDC.)Cogn.は,ブラジルの原産で,茎は直立性で高さは1~1.5mになり,全体が細かい毛でおおわれる。葉は対生し,濃緑色で表面は淡色,卵形で先端はとがり,5本の縦脈が入る。花はそれぞれの枝の先に1~3個つき,赤紫かすみれ色で美しい。この属でもっとも広く観賞用に栽培されている。

 ノボタンもシコンノボタンも性質は強く,冬は3℃以上を保てばよい。日のよく当たる場所におき,よく肥えた培養土で栽培する。繁殖は挿木で,各枝の先端部を長さ5~10cmに切り,5月ころ挿す。

 また近縁属の植物にヒメノボタンOsbeckia chinensis L.がある。これはヒマラヤ,中国から日本南部の原産で,茎は赤みがかった四角形で長く伸び,分岐する。葉は卵状楕円形で繊毛を有し,対生する。花はばら色で,おしべは黄色である。よく似て花が多数つくオスベッキア・クリニタO.crinitaをヒメノボタンと称して観賞用に栽培することがある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ノボタン」の意味・わかりやすい解説

ノボタン
のぼたん / 野牡丹
[学] Melastoma candidum D.Don

ノボタン科(APG分類:ノボタン科)の常緑低木。小笠原諸島、奄美(あまみ)大島以南からベトナムに分布する。高さ約2メートル。若い枝は四角形で、灰白色の軟毛がある。葉は対生し楕円(だえん)形で、長さ5~10センチメートル、先はとがり、3~5本の平行脈がある。夏、枝先に集散花序をつけ、径約7センチメートルの淡紫色花を3~7個開く。花弁は5枚で回旋状に並ぶ。雄しべは10本、うち2本の葯(やく)は紫色で大きく、長さ1センチメートルで鎌(かま)状に曲がる。残り8本はやや小さく黄色。鉢物として温室内で栽培される。果実は壺(つぼ)状の液果で、食べられる。本種によく似ているシコンノボタンは秋から翌春に花を開き、葯は紫色で長く、鎌形に湾曲する。中南米が原産で、園芸植物として流通している。

[植村猶行 2020年8月20日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ノボタン」の意味・わかりやすい解説

ノボタン(野牡丹)
ノボタン
Melastoma candidum

ノボタン科の常緑低木。台湾,マレーシア,オーストラリアに産し,日本では南西諸島に自生するほか,観賞用に温室で栽培される。葉は対生し,卵形または楕円形で長さ 4.5~9cm,表面に粗毛が密生する。3本の葉脈が著しい。夏,枝先に直径 7cm内外の淡紫色の美花を単生する。花弁は5枚で互いにねじれて重なり,おしべ 10本,めしべ1本がある。果実は球形で褐色の硬い毛が密生する。種子は細かい。南方では果実を食用にする。同属の植物は東南アジアの熱帯地方に多数あるが,小笠原諸島にもムニンノボタン M. tetramerumが知られている。この種はノボタンに比べて花はずっと小さく,ときに4数性の個体もみられる。

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百科事典マイペディア 「ノボタン」の意味・わかりやすい解説

ノボタン

奄美群島以南,台湾,中国,東南アジアに分布するノボタン科の常緑低木。枝や葉に褐色の粗毛があり,葉は卵状楕円形で数条の著しい縦脈がある。5〜8月,径7cmほどの紅紫色の5弁花を枝先に開く。おしべは10本,葯(やく)は黄色で長く,花柱は1本で針形となる。不耐寒性なので温室で栽培される。近縁種にムニンノボタン,ハハジマノボタンがあり,ともに小笠原に特産する。

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