改訂新版 世界大百科事典 「ハワイミツスイ」の意味・わかりやすい解説
ハワイミツスイ (ハワイ蜜吸)
Hawaiian honeycreeper
スズメ目ハワイミツスイ科Drepanididaeの鳥の総称。この科は13属約23種からなり,ハワイ諸島の特産。ハワイミツスイ類は,競争者のいない島嶼(とうしよ)で適応放散を遂げた結果,一つの科の中でさまざまな形のくちばしをもった種が進化した実例として著名である。全長10~20cm。羽色は緑色ないし黄色を主色としたものが多いが,赤色や黒色を主色とした種もある。くちばしと舌の形態は,食物の種類と採食方法とに適応している。すなわち,花みつや昆虫,クモ類を主食とするものは,くちばしが細長く,種によっては大きく下方に湾曲し,舌は管状である。一方,種子や固い果実を主食とするものは,くちばしが円錐形ないし太短く,ふつうの肉質の舌をもっている。特殊なくちばしの持主はオウムハシハワイミツスイPseudonestor xanthophrysやカワリカマハシハワイミツスイHemignathus wilsoni(ハワイ名akiapolaau)である。前者はくちばしの強力な力で樹皮をこじあけ,後者は長く湾曲した上くちばしで幹の隙間をさぐり,短くまっすぐな下くちばしで木に穴をあけ,樹幹や枝の中に潜む昆虫類をさがし出して食べている。
ハワイミツスイ類は熱帯多雨林を好み,繁殖期以外は小群で生活している。ミドリハワイミツスイViridonia virens(ハワイ名amakihi)やアカハワイミツスイHimatione sanguinea(ハワイ名apapane)は,わん形の巣を木の上につくり,1腹2~3個の卵を産む。抱卵期間は13~14日。営巣と抱卵は雌の役目だが,育雛(いくすう)には雄も参加する。しかし,大部分の種は習性や繁殖生態がよくわかっていない。というのは,十分に研究される以前に,絶滅したり,数が極端に減ってしまったものが多いからである。23種のうち16種は絶滅したか絶滅の状態に近く,比較的ふつうに見られるのはミドリハワイミツスイ,アカハワイミツスイ,ショウジョウハワイミツスイVestiaria coccinea(ハワイ名iiwi)など数種にすぎない。多くの種が絶滅した理由としては,固有の原生林が人によって破壊されたためだが,くちばしと採食方法が特殊化しすぎて,環境の変化に対応できなかったためとも考えられている。ある学者は,白人によって移入された伝染病を絶滅の原因の一つにあげている。また,装飾品や衣類にするため,大量の小鳥類が殺された。ハワイミツスイの羽毛でつくられた飾物が博物館には多数残っていて,往時これらの鳥たちが無数にすんでいたことを証明している。
執筆者:森岡 弘之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報