バベルの塔(読み)ばべるのとう(英語表記)Tower of Babel

日本大百科全書(ニッポニカ) 「バベルの塔」の意味・わかりやすい解説

バベルの塔
ばべるのとう
Tower of Babel

旧約聖書』「創世記」に記されたれんが造りの高い塔。物語によれば、人類ノアの大洪水ののち、シナル(バビロニア)の地にれんがをもって町と塔を建て、その頂を天にまで届かせようとした。神はこれをみて、それまで一つであった人類の言語を乱し、人間が互いに意志疎通できないようにしたという。この物語の背景には文化史的な事実がある。というのは、古代メソポタミアにおいて、各大都市はジッグラトとよばれる壮麗な塔を日干しれんがで建造し、そこで種々の宗教祭儀を行っていたからである。この事実は考古学的発掘によって証明されている。政治的、経済的、文化的に劣る古代イスラエル人は、この塔を見聞したとき、これにあこがれるのでなく、むしろこういった文明背後に潜む人間の自己過信や高ぶりを見抜こうとしたのであろう。また、このような大建造物をもって威圧する政治権力が、結局は人々を一致させるどころか分裂させていくということを悟った。

 こうした文明批判から生まれたのがバベルの塔の物語である。「バベルの塔」は比喩(ひゆ)的に人間の高ぶりの業(ごう)の意味で用いられる。また、西欧近世の絵画にしばしばみられるバベルの塔にも、同様の文明批判が込められていることが多い。バベルはバビロンとバラル(乱す)の語呂(ごろ)合せである。

[月本昭男]

『前田護郎著『ことばと聖書』(1963・岩波書店)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「バベルの塔」の意味・わかりやすい解説

バベルの塔
バベルのとう
Tower of Babel

旧約聖書創世記』中に出てくる塔。大洪水のあと同じ言葉を話していたノアの子孫たちは,東方のシナルの平野に移り住んだとき,民族の分散を免れることを願って,煉瓦瀝青を用いた町と,天に達するような高い塔とを建設することを企てた。ヤハウェはこれを見て同一言語を有する民の強力な結束と能力を危惧し,彼らの言葉を混乱させ (バーラル) ,その企てをはばんだ。民は町と塔の建設を断念して各地に散った。この町はバーラルという語の発音に似せたバベルと呼ばれるようになった。この物語は,民族と言語の多様性を説明すると同時に,神と等しくなろうとする人間の罪を描いている。こうしてバベルの塔はノアの子孫たちの分散の原因となった (11・1~9) 。ただし『創世記』 10章における諸民族の成立の記事にはこの塔のことは触れられていない。バベル (バビロン) はアッシリアでは「神の門」の意味であるが,『創世記』はヘブライ語の語根バーラルと結びつけている。なおこの塔は,ジッグラトと呼ばれるバビロンのピラミッドをさすという説もある。

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