バンバラ族(読み)バンバラぞく(その他表記)Bambara

改訂新版 世界大百科事典 「バンバラ族」の意味・わかりやすい解説

バンバラ族 (バンバラぞく)
Bambara

西アフリカ,マリ共和国の西半分の地域に居住するマンデ系の農耕民人口約170万で,マリでは最も大きな部族である。バンバラ語は言語的には,マリンケ族デュラ族などの言語とマンデ語群を形成している。マンデ語群は西アフリカでハウサ語とならび広い分布をもっている。マリにおいても,マンデ諸族は人口の半ば以上を占めており,バンバラ語はフルフルデ(フルベ)語,ソンガイ語,タマシェク語(トゥアレグ族の言語)とともに国語に指定されている。

 マンデ系のほかの部族と同じように,バンバラ族は13世紀に勃興し,14世紀に繁栄の頂点を迎えたマリ帝国末裔であるとの自負をもっている。マリ帝国は15世紀中ごろから衰退をはじめ,17世紀には勢力を失い,ニジェール川上流のカンガバに退却した。マンデ諸族は各地に分散したが,バンバラ族はニジェール川中流のセグーと,その西のカールタの2地方に王国を形成した。この二つの王国は,ほぼ勢力が拮抗し競い合った。バンバラという名称は不信心者という意味で,イスラムへの改宗を拒んだ人々の意である。マリ帝国が交易に経済的基盤を置き,トンブクトゥなどの都市を核とし,イスラム文化を基調としたのに対し,これらのバンバラ王国は異教的で,農業生産に基礎を置いていた。マンデ諸族は,トウジンビエ,モロコシ,フォニオなどの雑穀,ササゲ,バンバラ・ナット,オクラヒョウタン,ゴマ,ワタなどの作物を栽培し,アブラヤシやシーアバターノキ(脂肪を実からとる)などを利用するなど,多彩な農業文化の担い手であった。19世紀に入り,ヨーロッパ植民地勢力の外圧が感じられるころ,マンデの社会にも内的な変革の動きが胎動し,サモリ・トゥーレのイスラム改革運動が開始され,バンバラの2王国も解体された。

 バンバラの社会はジャムーという共通の名前をもつクラン(氏族)で構成されている。ジャムーはクラン名であると同時に,サマケ(象),トラオレ(ヒョウ)などのように,トーテム的な動物を示すこともある。ケイタというジャムーはマリ帝国の王家につながり,そのメンバーは現在でも7年に1度,カンガバの聖なる建物に参集し,古い儀礼を行う。この際,楽師が重要な役割を果たすが,彼らは口頭伝承の語り部で,一つのカースト的な職業集団を形成している。バンバラ族には,有名なティワラというカモシカの頭飾の面をつけて踊る農耕儀礼がある。そのほか仮面のダンスが数種あるが,いずれも子どもや大人の秘密結社のメンバーが行う。さらにコーラ(ハープの一種),バラ(木琴の一種)などの楽器を用いた音楽など,伝統的な文化をよく保持している。また,イスラム的要素の強い装飾や象徴的モティーフをもった衣服,宝飾品,建築など,バンバラの文化は多彩な表現をみせる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「バンバラ族」の意味・わかりやすい解説

バンバラ族
バンバラぞく
Bambara

バンマナ族 Banmanaともいう。マリのニジェール川上流域に住むマンデ諸族の一民族。人口約 270万と推定される。定着農耕民で家畜を飼育しているが,諸階級に分れた技能者がいる。父系相続で,各集団の長はファマと呼ばれ,農耕の祭儀を司る。特殊な抽象的概念や宇宙論をもち,木や金属の宗教的彫刻が発達している。 12世紀頃からマリ帝国内のニジェール川上流地域に住み,17世紀にはセグー,ベルドゥグ王国を建設していたが,王国は 1861年イスラムの導師エル・ハジ・オマルに倒され,76年以降フランス領,1960年マリ共和国の一部となった。

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世界大百科事典(旧版)内のバンバラ族の言及

【マリ】より

…マンデ系の言語は,西アフリカのハウサ語や,東アフリカのスワヒリ語に匹敵する大きな言語人口を持つ。マリ国内のマンデ諸族Mandeには,バンバラ族(166万),ソニンケ族Soninke(サラコレ族Sarakole)(42万),マリンケ族(30万),カソンケ族Khassonkeなどの農耕民や,交易に従事するデュラDyula商人が含まれる。そのほか,大西洋側語群,ボルタ語群など言語系統の異なる部族のなかで有力なのは,中部のニジェール川が形成する内陸デルタ地域に居住するフルベ(フラニ,プール)族(55万),南部に住むセヌフォ族(43万),東部のニジェール川の大湾曲部に住むソンガイ族(30万),バンディアガラ山地に住むドゴン族(24万),北部の砂漠を生活の舞台とするトゥアレグ族や,その南のサヘル地帯に住むモール族Maureなどである。…

※「バンバラ族」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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