改訂新版 世界大百科事典 「パトロキニウム」の意味・わかりやすい解説
パトロキニウム
patrocinium
古代ローマにおける,法の枠外の,上下の保護・隷属関係。本来は,また狭義には,一種の身分的存在たるクリエンテス(被保護者)とそのパトロンとの信義(フィデスfides)を紐帯とする関係を指すが,しだいにそれと並んで,またそれに代わって政治・社会生活全体を覆う,恩義と奉仕の関係としてのパトロキニウムが発展してゆく。とりわけ共和政中期以降,末期にかけては,都市共同体や属州との関係,法廷での弁護を軸とする関係,将軍と兵士の間にみられる軍事的な上下関係などをも指すことになり,有力政治家とくに貴族,その中でもノビリスの政治生活を支える権力基盤となるとともに,法的な諸関係と絡みながら広くローマの地中海支配の支柱となった。帝政期にノビリス支配の衰退とともにその政治的な役割も減少するが,社会的・経済的には,サルタトレスsalutatoresとしてのクリエンテスにみられるように,この関係の日常生活における意義は減ずることなく,古代末期の帝国内の公的な秩序の乱れとともに,再び私的な隷属関係として,とくに農村においてその社会的な意義が増大する。
執筆者:長谷川 博隆
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報