ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マエケナス」の意味・わかりやすい解説
マエケナス
Maecenas, Gaius
[没]前8. ローマ
古代ローマの政治家。富豪で,文人のパトロンとして名高い。先祖はエトルリア人。オクタウィアヌス (のちの皇帝アウグスツス ) と親交を結び,親譲りの財産のほかに,さらに富をつけ加えることができたらしい。政務官にはならなかったが,その質実,温篤な人柄によりオクタウィアヌスの信頼厚く,また影響力も大きかった。 M.アントニウスとのあつれきに際しては使者として重要な役割を果した。オクタウィアヌスがローマを離れた前 36,前 31年には官職につかないままにローマ市とイタリアを統治し,陰謀をも未然に防いだ。しかし M.アグリッパと2人でアウグスツスの両腕として活躍した彼も義弟ムレナの陰謀事件後はその影響力が衰え,病で引きこもりがちになっていった。彼はいわゆる芸術家のパトロンとしては史上最も典型とされるにふさわしい人物であった。その富と文学趣味,さらに文人を遇する礼節を知った態度で多くの文学者を育てた。代表的な者はウェルギリウスでその作『農耕詩 (ゲオルギカ) 』は彼に捧げられている。またホラチウスも頌詩を彼に捧げ,プロペルチウスも援助を受けた一人であった。マエケナスは芸術家たちがアウグスツスの新体制を賛美する作品をつくることをすすめはしたが,それを強要するほどに文人を侮蔑してはいなかった。彼自身著作もしたが,セネカ (大)からは酷評されている。家庭人としては恵まれず,妻のテレンチアは気まぐれで彼をてこずらせ,アウグスツスと通じていたとさえいわれる。子のないままに没したが,その遺産をすべてアウグスツスに与えた。
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