マエケナス(読み)まえけなす(英語表記)Gaius Maecenas

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マエケナス」の意味・わかりやすい解説

マエケナス
Maecenas, Gaius

[生]前70頃.アレチウム
[没]前8. ローマ
古代ローマの政治家。富豪で,文人パトロンとして名高い。先祖はエトルリア人オクタウィアヌス (のちの皇帝アウグスツス ) と親交を結び,親譲りの財産のほかに,さらに富をつけ加えることができたらしい。政務官にはならなかったが,その質実,温篤な人柄によりオクタウィアヌスの信頼厚く,また影響力も大きかった。 M.アントニウスとのあつれきに際しては使者として重要な役割を果した。オクタウィアヌスがローマを離れた前 36,前 31年には官職につかないままにローマ市とイタリアを統治し,陰謀をも未然に防いだ。しかし M.アグリッパと2人でアウグスツスの両腕として活躍した彼も義弟ムレナの陰謀事件後はその影響力が衰え,病で引きこもりがちになっていった。彼はいわゆる芸術家のパトロンとしては史上最も典型とされるにふさわしい人物であった。その富と文学趣味,さらに文人を遇する礼節を知った態度で多くの文学者を育てた。代表的な者はウェルギリウスでその作『農耕詩 (ゲオルギカ) 』は彼に捧げられている。またホラチウス頌詩を彼に捧げ,プロペルチウス援助を受けた一人であった。マエケナスは芸術家たちがアウグスツスの新体制を賛美する作品をつくることをすすめはしたが,それを強要するほどに文人を侮蔑してはいなかった。彼自身著作もしたが,セネカ (大)からは酷評されている。家庭人としては恵まれず,妻のテレンチアは気まぐれで彼をてこずらせ,アウグスツスと通じていたとさえいわれる。子のないままに没したが,その遺産をすべてアウグスツスに与えた。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「マエケナス」の意味・わかりやすい解説

マエケナス
まえけなす
Gaius Maecenas
(?―前8)

古代ローマの政治家。エトルリア出身のローマ騎士で、第2回三頭政治・内乱時代のオクタウィアヌス(後の皇帝アウグストゥス)の腹心部下となる。オクタウィアヌスの重要な政治折衝での代表となり、さらに彼の不在中はローマでの全権をもった代理の役割を務めた。帝政期には、アウグストゥスへの陰謀事件に義理の兄弟が連座したこともあり、アウグストゥスとの関係は疎遠となった。彼は、文学者、とくに詩人の熱心な後援者でもあり、ウェルギリウス、ホラティウスプロペルティウスなどのラテン文学の黄金時代を築いた詩人たちを自ら庇護(ひご)すると同時に、アウグストゥスに紹介した。また、生涯元老院議員にならず、騎士身分にとどまったことでも知られる。

島田 誠]

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