ヒストリアアウグスタ(その他表記)Historia Augusta

改訂新版 世界大百科事典 「ヒストリアアウグスタ」の意味・わかりやすい解説

ヒストリア・アウグスタ
Historia Augusta

ラテン語で書かれたローマ皇帝列伝集。4世紀末の成立と思われる。全30巻からなり,117年(ハドリアヌス)から284年(ヌメリアヌス),すなわちディオクレティアヌスの登位直前までのローマ皇帝と,副帝,帝位僭称者の伝記を集めている。スパルティアヌスAelius Spartianusなど6名の著者が分担して執筆し,ディオクレティアヌス,コンスタンティヌス1世らに献呈した形をとっている。本書は,他に史料の乏しい3世紀のローマ帝国の歴史の史料として,また2世紀諸帝の詳細な伝記史料として重宝がられたが,19世紀末以来,成立年代,著者問題,ひいてはその信憑性に厳しい史料批判が加えられ,学界の一論争点となっている。なお未解決の点は多いが,総じて今では本書はセウェルス朝までの伝記については,現在は失われたギリシア・ラテン史書をよく渉猟して信頼するに足る記述をしているが,3世紀の軍人皇帝に関する部分はほとんどがフィクションで,架空の人物の伝記すら含んでいてとうてい主史料として依拠できないと考えられている。また6名の著者も架空の人物で,実際は1人の著者が,395年以後に書いたものとするのが通説となりつつある。文章格調はあまり高くなく,前半部ですら饒舌で逸話を好むとされる。キリスト教にふれることは少なく,基本的にはローマ元老院貴族の伝統志向の立場から執筆されたと考えられ,スエトニウスの《皇帝伝》を手本としたともいわれる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヒストリアアウグスタ」の意味・わかりやすい解説

ヒストリア・アウグスタ
Historia Augusta

ローマ皇帝ハドリアヌスからヌメリアヌスにいたる 117~284年の期間における皇帝の列伝。ローマ帝政史の重要な史書。『皇帝史』とも呼ばれる。この名称は 1603年 I.カソーボンが命名したもので原名は不明。その体裁は G.スエトニウスの『皇帝伝』によっているが,その直接の継続で,本来ネルウァとトラヤヌス伝をも含んでいたという説もあるが,証拠はない。また本書の著作者と成立年代には多くの学説があってまだ定説はない。写本には4世紀初期の6人の作者が記されているが,彼らは偽作者とし,本書を4世紀末の成立とみなす説もある。本書の立場は明白に異教的であり,したがってその作者または作者たちはおそらく背教者ユリアヌス帝の影響のもとにキリスト教の発展に対決しようとする姿勢がうかがわれる。本書の前半 (ハドリアヌスからカラカラまで) は信頼される史料によって歴史的価値は高いが,後半は一般に信憑性が少いとみなされている。

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世界大百科事典(旧版)内のヒストリアアウグスタの言及

【ローマ】より

…フランク族はライン川下流を脅かし,ゴート族はバルカン半島からエーゲ海方面を荒らし,アラマンニ族もラインを渡り,北イタリアを劫掠してラベンナに達した。 ウァレリアヌスの息子ガリエヌス(253‐268)の治下にも各地に異民族の侵入が続き,《ヒストリア・アウグスタ(皇帝伝)》で〈三十人僭主〉と呼ばれる多くの帝位僭称者が現れたが,彼は軍隊を騎兵中心の機動軍を中核にすえるものにつくりかえ,危機のどん底からようやくはい上がった。彼にイリュリクム出身の皇帝が続き帝国再建の努力を続ける。…

※「ヒストリアアウグスタ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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