日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒモムシ」の意味・わかりやすい解説
ヒモムシ
ひもむし / 紐虫
紐形(ひもがた)動物門Nemertineaに属する種類の一般的名称。ほとんどの種類が海生で、沿岸の大陸棚のスロープの大小の岩石の下面、岩板の裂け目や砂中、海藻に付着している。少数種は汽水や淡水に、また熱帯の陸上で発見されている。陸上ではパインの葉の基部の湿ったところ、石や落木の下、老木の樹皮の裏側などでみつかっている。
体は繊毛をつけた表皮の下に厚い筋肉層(主として外環筋層と内縦筋層)がある。その内側に柔組織があり、大きい吻(ふん)器官と消化管が収まっている。吻器官には長い吻が入っていて、摂食行動に先だって脳前の放射状の収縮筋の作用で反転し、吻道を通って頭端から体外に吐き出され、ヘビのように生きた動物をからめて食べてしまう。口は吻が出る口と共通の頭端か、または頭部の腹側にある。消化管は食道(胃―幽門)、腸と続き、肛門(こうもん)で終わる。閉鎖型の血管が柔組織内にあり、左右1対の側血管と1背血管からなり、体の前後でつながっている。排出器官は食道部の側血管に接して広がる管状の腎管(じんかん)をもつが、発生学的には外胚葉(がいはいよう)に由来する原腎管である。脳は背腹神経節からなり、腹神経節から側神経が体後方に向かって延びている。感覚器官の頭感器があり、脳に直結している。これは頭端から導管により頭側部に開口し、化学感受作用をしている。そのほか、眼点や頭腺(とうせん)がある。雌雄異体が普通で、腸部の柔組織内に生殖腺が並んでいる。
元来、海生であったものが汽水に適応した場合の体内諸器官の変化について、もっともはっきりしたものに血管系と排出器官がある。これは体内の浸透圧の調節、つまり水分の調節と体内イオン調節のための変化である。茨城県の汽水湖である涸沼(ひぬま)は、その塩分濃度が夏には海の60%になり、冬には15%に低下する。この環境にすむヒヌマヒモムシの腎管は特異に発達し、またその外輸管が長大である。つまり、体内浸透圧調節のための過剰な水分の排出と、その過程でのイオンの再吸収が行われるためである。それに反して三重県津市の海岸で発見された、バカガイに寄生するキセイヒモムシでは腎管は十分に発達していない。つまり、このヒモムシは貝殻の中にいて体内水分とイオンの調節の必要がないからである。
ヒモムシは雌雄異体で、生殖腺は体節的に並び、成熟すると卵・精子は生殖管を通り、体外に放出される。卵は一時に多数放卵されたり、または卵塊をつくる。発生型としては変態を経過するものとしないものとがあり、変態をするものには帽形幼生、デゾル幼生とイワタ幼生が知られ、いずれも幼生上皮の5か所が内方に陥没して嚢(ふくろ)をつくり、その内側の壁が広がって互いに接着し、幼生上皮とは別に成体上皮をつくったのち、脱皮をする。帽形幼生は海水中で浮遊し、プランクトン性の動物を食べて変態するが、ほかは自卵の栄養物を吸収して変態。イワタ幼生はプランクトン性である。
[岩田文男]