改訂新版 世界大百科事典 「ヒヨケザル」の意味・わかりやすい解説
ヒヨケザル
colugo
flying lemur
体側に皮膚の膜(飛膜)をもつ皮翼目ヒヨケザル科Cynocephalidaeの哺乳類の総称。コウモリザルともいう。皮翼類Dermopteraは翼手類や霊長類に近縁の哺乳類で,飛膜を用いて滑空する。フィリピン南部にフィリピンヒヨケザルCynocephalus volans,インドシナ南部からマレー半島,スマトラ,ジャワ,ボルネオなどにマレーヒヨケザルC.variegatusの1属2種がある。体長34~42cm,尾長17~27cm,体重1~1.75kg。食虫類に酷似した体制をもち,前・後肢と尾は細く長い。5指があり,鋭く大きなかぎづめをもつ。頭は幅広く,吻(ふん)がとがり,耳が小さく目は大きい。飛膜は首から前足の指先,後足の指先,尾端まであり,ムササビやモモンガよりも発達する。切歯は上に2対,下に3対,犬歯が上下各1対ある。下の切歯は櫛(くし)状。乳頭が胸に1対しかなく,陰茎が懸垂性で胎盤が円盤状であるなどの点は翼手類や霊長類に似る。子宮は重複性,盲腸が大きい。体色と斑紋には変異があるが,一般に雄は褐色を帯び,雌は灰色がかり,マレーヒヨケザルの背面には白斑が散在する。
低地から山地の森林,二次林などにすみ,樹上生で,ナマケモノのように木にぶら下がり,移動はのろい。おもに夜行性で,日中は25~50mの高所にある樹洞で過ごし,一つの休息場に数頭が入っていた記録がある。夕刻より食物を求めて木から木へ100m以上,ときに136mも滑空する。食物は果実,つぼみ,花,葉で動物性のものはとらない。水分も葉などの食物からとるといわれる。詳しい生態,習性は知られていない。きしるような声で鳴くが警戒音と考えられている。1~3月に交尾し,妊娠期間は約60日で,1産1子,まれに2子を生む。子は有袋類のように未熟状態で生まれ,飛膜につつまれて育つともいう。寿命は飼育下で17年6ヵ月以上の記録がある。この目(もく)の化石は暁新世と始新世の北アメリカから知られるが,現在は東南アジアの特産である。
執筆者:今泉 吉典+今泉 忠明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報