翻訳|Faunus
古代ローマの牧人と家畜の神。その名は〈恩恵を施す者〉の意。早くからギリシアの牧神パンと同一視されたため,美術ではパンと同様,ヤギの角と脚を持つ姿で表現される。彼はもともと森の神で,とくに森の中で聞こえる不思議な音は彼の声と想像されたところから,予言を伝える神としてファトゥウスFatuus(〈語る者〉の意)と呼ばれることもあった。神殿はティベリス川の中州にあり,2月13日にファウナリアFaunalia祭が行われた。このほか,生あるものの多産と豊饒を祈願する2月15日のルペルカリアLupercalia祭も,おそらくルペルクスLupercusの名のもとに崇拝されたファウヌスの祭式であったと考えられている。なお,彼と同一の職能をもって女性に臨む女神にファウナFaunaがあり,彼女はファウヌスの姉妹,妻または娘とされる。またファウヌスの複数形ファウニFauniは,半人半獣の山野の精(英語のfauns)で,彼らはギリシアのサテュロスと同一視された。
執筆者:水谷 智洋
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古代ローマの森の神。その名はfavēre(恵みを与える)と同じ語源と考えられ、家畜と農作物を保護する神であった。家畜の神としてはイヌウスInuusの呼称をもつ。またファウヌスは、預言の力を有していたことからファトゥウスFatuusともよばれたが、これは森の中の正体不明の声をこの神のものとしたためで、fāri(話す)と関連していると考えられている。なお、家畜と畑の女神ファウナ、預言の女神ファトゥアは、いずれもこの神の女性形である。古くより2月15日に行われたローマのルペルカリア祭は、農作物と家畜と人間の多産を祈る祭礼であるが、おそらくその祭神はファウヌスであったと推察される。ローマの伝説によれば、ファウヌスはラティウムの古王であったといい、のちにはギリシア神話のパンと同一視され、ギリシアのサティロスに似た存在となった。
[伊藤照夫]
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…美術では,ヤギの角と耳と脚,また馬の尾をもつ半人半獣の姿に表現されることが多い。のちにローマ人はファウヌスと同一視した。よく似た存在にシレノスSilēnos(セイレノスともいう)があるが,この方は老人で,馬の特徴を多くもっている。…
…その名は〈養う者〉の意。ローマ神話のファウヌスにあたる。もともとアルカディア地方の神で,同地方に多いヤギの脚と角を持つ姿に想像された。…
※「ファウヌス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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