日本大百科全書(ニッポニカ) 「フィリップ・モリス」の意味・わかりやすい解説
フィリップ・モリス
ふぃりっぷもりす
Philip Morris
アメリカのたばこメーカー。たばこのほか、食品・ビールのメーカーとしても世界有数。1847年に創業者フィリップ・モリスがロンドンで開いたたばこ店を前身として、後に製造業に転じた。1919年にバージニアにたばこ製造会社としてPhilip Morris and Co. Ltd.が設立され、1929年にはニューヨークに本社を移転。1954年にベンソン・アンド・ヘッジスBenson & Hedges Co.を買収し、急成長を遂げた。1960年代に入るとマールボロMarlboroなどの銘柄によるブランドイメージが定着し、世界的に販売を展開する。1969年にはビール会社のミラーMiller Brewing Co.を、1978年には清涼飲料のセブンアップSeven-Up Co.を買収(海外販売部門は1986年ペプシコに売却)。1988年にはクラフトKraft Inc.を買収し、食品産業への本格的な進出を果たした。さらに2000年、クラッカーの「リッツ」やクッキーの「オレオ」などで知られるアメリカの食品大手ナビスコNabisco Holdings Corp.を買収、傘下のクラフトに事業を統合した。
たばこの主要銘柄はマールボロのほか、パーラメントParliament、バージニア・スリムVirginia Slimsなど。たばこの販売は国内ではフィリップ・モリス・USA、海外ではフィリップ・モリス・インターナショナルを通じて行われている。食品を扱うクラフト・フーズの主力製品は包装食品、コーヒー、チーズ、加工食肉製品などであり、その製造・販売においては北米最大手である。海外市場はクラフト・フーズ・インターナショナルが担当。ビールの主要銘柄はミラーMillerなど。国内のビール市場では約20%のシェアを誇った(2001)。禁煙・嫌煙運動が高まるなか、たばこ事業での相次ぐ健康被害の賠償訴訟に直面したフィリップ・モリスは、2002年には本体である持株会社Philip Morris Companies Inc.の社名をアルトリア・グループAltria Group, Inc.に変更し、非たばこ事業の拡充を図った。各事業会社のフィリップ・モリス、クラフト・フーズなどは名称を変えなかった。
2002年にビール製造のミラーと南アフリカのサウスアフリカン・ブルワリーズSouth African Breweries plcが合併し、SABミラーSABMiller plcを設立(新会社株式の約25%を保有)。2007年にクラフト・フーズ、2008年にフィリップ・モリス・インターナショナルを分社化した。2009年に無煙たばこメーカーのユー・エス・ティーUST Inc.を買収した。2009年時点で、アルトリアグループはフィリップ・モリスUSA、USスモークレス・タバコU.S. Smokeless Tabacco Co.、ジョン・ミドルトン・カンパニーJhon Middleton Company(葉巻・パイプタバコの製造)、サント・ミッシェル・ワイン・エステーツSte. Michelle Wine Estates、フィリップ・モリス・キャピタル・コーポレーションなどから構成されている。2008年の売上高は193億3600万ドル、純利益49億3000万ドル。売上げのほとんどをタバコ製品が占めた。
[萩原伸次郎]
『伊佐山芳郎著『現代たばこ戦争』(岩波新書)』▽『Richard KlugerAshes to Ashes ; America's Hundred-Year Cigarette War, the Public Health, and the Unabashed Triumph of Philip Morris(1997, Vintage Books, New York)』