日本大百科全書(ニッポニカ) 「フォンターネ」の意味・わかりやすい解説
フォンターネ
ふぉんたーね
Theodor Fontane
(1819―1898)
ドイツの市民的リアリズムを代表する小説家。プロイセンの首都ベルリンに近いノイルピンでフランス系亡命新教徒(ユグノー)の家に生まれる。父の生業を継いで薬剤師となったが、早くから文学に志し、『物語詩集』(1861)、『マルク・ブランデンブルク周遊記』全四巻(1862~82)など、詩人・ジャーナリストとして少なからぬ収穫をあげたのち、59歳という高齢になって長編歴史小説『嵐(あらし)の前』(1878)で小説家として登場した。以後刊行された長短16編の小説は、大部分が作者と同時代、19世紀後半の社会と人間をとらえたもので、なかでもベルリンとその周辺を舞台とする作品が優れている。比較的短い『不貞の女』(1882)、『セシール』(1887)、『迷誤』(1888)、『スティーネ』(1890)、および長大な『ジェニー・トライベル夫人』(1892)、『エフィ・ブリースト』(1895)、『シュテヒリン湖』(1898)などである。しばしば男女関係の不均衡とその破綻(はたん)を扱いながら、貴族(ユンカー)、商工業者、庶民、インテリといった多彩な登場人物が交わす機知あふれる会話のなかで、プロイセン=ドイツの現実が抱える矛盾を重層的にえぐり出しているのが特徴で、その作風には現代文学への架橋という点でも注目すべきものがある。
[立川洋三]
『立川洋三訳『シュテヒリン湖』(1984・白水社)』