フォンデル(その他表記)Joost van den Vondel

改訂新版 世界大百科事典 「フォンデル」の意味・わかりやすい解説

フォンデル
Joost van den Vondel
生没年:1587-1679

オランダの詩人劇作家。17世紀オランダ・バロック文学の代表者。アントワープ出身の新教徒の子としてケルンに生まれ,9歳のとき一家とともにアムステルダムに定住した。1606年,詩人クラブ〈白ラベンダー〉に入会して詩作を始め,詩劇《過越の祭》(1610)を書く。13年から父の後を継いで靴下店を営む。19年,32歳のころからホーフトをはじめ同世代の学者,文人と交わり,ギリシア・ローマの古典を研究して,とくにセネカソフォクレスなどの悲劇詩人から深い影響を受けた。25年に発表された悲劇《パラメデス》はギリシア伝説に取材して,政治家オルデンバルネフェルトを反逆罪で処刑(1619)した総督マウリッツとその同調者らを風刺したもので,詩人の才能の開花期の代表作とされている。オランダの年代記に取材した史劇《アームステルのヘイスブレヒト》(1637),悲劇《ドタンのヨセフ》(1640)を書いた50歳代からようやく円熟期に入った。41年にカトリック改宗以後,作品にいよいよ宗教性を深め,天使堕落をめぐって善悪相克を描いた《ルシフェル》(1654),勝利と引換えに娘を犠牲にした古代イスラエルの士師エフタを描いた《エフタ》(1659),《追放されたアダム》(1664)などの名作を書いて劇詩人として大成した。その創作活動は半世紀以上に及び,戯曲24編のほか数多くの抒情詩風刺詩,愛国詩,宗教詩を残した。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「フォンデル」の意味・わかりやすい解説

フォンデル
ふぉんでる
Joost van den Vondel
(1587―1679)

オランダの詩人、劇作家。ドイツのケルンに生まれ、宗教戦争の結果、各地を転々としたのち、アムステルダムに落ち着く。ギリシア、ラテン語の古典文学に傾倒し、ホーフトの文学仲間に加わったが、浸礼派の新教からカトリックに改宗後この関係は絶えた。息子、娘、妻の死と家庭の不幸が続くなかで、政治家オルデンバルネフェルトの暗殺を扱った政治風刺詩や、肉親の死に寄せた叙情詩の数々を発表したが、とくに戯曲に優れ、32編の作品を残した。トロヤの大火災になぞらえた、没落直前のアムステルダムを救う英雄ヘイスブレヒトが出現し、市の繁栄を予言する戯曲『アムステルのヘイスブレヒト』(1637)は、1638年に市劇場設立記念に初演され、41年から1968年まで毎年新年に上演される習わしであった。そのほかおもな作品に、政治的色彩の濃い問題作『メアリー・スチュアート』(1646)、ミルトンの『失楽園』と並び称される『サタン』(1654)とその第二部『アダムの追放』(1664)などがある。

[近藤紀子]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フォンデル」の意味・わかりやすい解説

フォンデル
Vondel, Joost van den

[生]1587.11.17. ケルン
[没]1679.2.5. アムステルダム
オランダの詩人,劇作家。独学で学び,フランスの詩人デュ・バルタスの影響を受けた。抒情詩,風刺詩,愛国詩,宗教詩のほか,ウェルギリウス,セネカの翻訳があり,17世紀のオランダ黄金時代における最大の詩人と認められた。偉大な法学者 H.グロチウスとの交友から 54歳でカトリックに改宗した。代表作は風刺詩『パラメデス』 Palamedes (1625) ,抒情詩『ヘイスブレヘト・ファン・アムステル』 Gijsbrecht van Amstel (37) ,『ルシフェル』 Lucifer (54) 。

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世界大百科事典(旧版)内のフォンデルの言及

【オランダ語】より

…【斎藤 治之】。。…

【オランダ文学】より


[中世]
 北海沿岸のネーデルラント地方に,オランダ語で書かれた民族文学が起こったのは1200年ごろからである。早くから毛織物工業が栄えて市民階級が台頭し,フランス文化の影響をじかに受けていたフランドルを中心とする南部に,ディーツDiets語と呼ぶ中世オランダ語の聖者伝や騎士道物語,教訓詩,宗教詩などが相次いで現れた。また,ウィレムという詩人がフランス語の《狐の裁判》を種本として,当時の封建社会を風刺,活写した動物物語詩の傑作《狐のレーナルデ》(1250ころ)を書き,市民文学の手本としてヨーロッパの諸国語に翻訳された。…

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