日本大百科全書(ニッポニカ) 「フタル酸エステル」の意味・わかりやすい解説
フタル酸エステル
ふたるさんえすてる
phthalate ester
フタル酸と種々のアルコールとの縮合により生ずるエステルの総称。アルコールが一方のカルボキシ基-COOHだけと縮合している酸性エステルと、両方のカルボキシ基に縮合している中性エステルとがある( )。実用上重要であるのは中性エステルであり、工業的には無水フタル酸とアルコールから合成されるビニル樹脂の可塑剤として用いられている。なお、ビニル樹脂でつくった食品容器から、可塑剤として用いられているフタル酸ジオクチルなどが食用油に溶け出して健康被害をおこす危険性が指摘されている。次に工業的に重要ないくつかのフタル酸エステルの例をあげる。
[廣田 穰 2015年7月21日]
フタル酸ジブチル
化学式C6H4(CO2C4H9-n)、分子量278.3。無色無臭の油状液体。沸点340.7℃。ビニル系合成樹脂の可塑剤、溶剤としての用途をもつ。
[廣田 穰 2015年7月21日]
フタル酸ジオクチル
通常、フタル酸ジオクチルとよんでいるのは、その異性体の1種であるフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)のことである。化学式C6H4(COOC8H17)2、分子量391。2-エチルヘキシルアルコール(オクチルアルコールの異性体の一つ)と無水フタル酸との反応により製造する。無色の油状液体。凝固点-55℃、沸点231℃(5mmHg)。沸点が高く揮発性が低いので、ポリ塩化ビニルなどのビニル樹脂あるいは合成ゴムの可塑剤として大量に用いられている。
[廣田 穰 2015年7月21日]