フタル酸エステル(読み)フタルサンエステル(その他表記)phthalate ester

デジタル大辞泉 「フタル酸エステル」の意味・読み・例文・類語

フタルさんエステル【フタル酸エステル】

フタル酸アルコールエステル結合した化合物総称塩化ビニルなどプラスチック製品の可塑剤として幅広く使用される。
[補説]発癌はつがん性・生殖毒性・内分泌攪乱かくらん物質(環境ホルモン)の疑いなどが指摘され、各国で規制されている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「フタル酸エステル」の意味・わかりやすい解説

フタル酸エステル
ふたるさんえすてる
phthalate ester

フタル酸と種々のアルコールとの縮合により生ずるエステルの総称。アルコールが一方のカルボキシ基-COOHだけと縮合している酸性エステルと、両方のカルボキシ基に縮合している中性エステルとがある()。実用上重要であるのは中性エステルであり、工業的には無水フタル酸とアルコールから合成されるビニル樹脂の可塑剤として用いられている。なお、ビニル樹脂でつくった食品容器から、可塑剤として用いられているフタル酸ジオクチルなどが食用油に溶け出して健康被害をおこす危険性が指摘されている。次に工業的に重要ないくつかのフタル酸エステルの例をあげる。

[廣田 穰 2015年7月21日]

フタル酸ジメチル

化学式C6H4(COOCH3)2、分子量194.2。無色液体沸点282.2℃。合成樹脂溶媒香料防虫剤としての用途をもつ。

[廣田 穰 2015年7月21日]

フタル酸ジエチル

化学式C6H4(CO2C2H5)2、分子量222.2。弱い果実様のにおいをもつ無色の液体。沸点296℃。香料の溶剤および保留剤としての用途をもつ。

[廣田 穰 2015年7月21日]

フタル酸ジブチル

化学式C6H4(CO2C4H9-n)、分子量278.3。無色無臭の油状液体。沸点340.7℃。ビニル系合成樹脂の可塑剤、溶剤としての用途をもつ。

[廣田 穰 2015年7月21日]

フタル酸ジオクチル

通常、フタル酸ジオクチルとよんでいるのは、その異性体の1種であるフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)のことである。化学式C6H4(COOC8H17)2、分子量391。2-エチルヘキシルアルコール(オクチルアルコールの異性体の一つ)と無水フタル酸との反応により製造する。無色の油状液体。凝固点-55℃、沸点231℃(5mmHg)。沸点が高く揮発性が低いので、ポリ塩化ビニルなどのビニル樹脂あるいは合成ゴムの可塑剤として大量に用いられている。

[廣田 穰 2015年7月21日]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フタル酸エステル」の意味・わかりやすい解説

フタル酸エステル
フタルさんエステル
phthalic acid ester

フタル酸のエステル。化学式 CH4(COOR)(COOR') 。モノエステル ( R は水素) とジエステルがある。可塑剤としてプラスチックに配合されているが,これがプラスチック製の食器などから浸出して人体に摂取されるおそれがあり,肝臓腎臓に障害を与える可能性が指摘されている。毒性PCBの1/15~1/20の低毒性ではあるが日常接触する機会が多いため,汚染物質として注意されるようになった。生物への濃縮率は低いが,多少の水溶性があり,水質汚濁の因子となる。

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化学辞典 第2版 「フタル酸エステル」の解説

フタル酸エステル
フタルサンエステル
phthalate

フタル酸のエステルの総称.ポリ塩化ビニル樹脂用可塑剤を中心に,ペンキ,インキ,粘着剤などに広く使われている.フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)がもっとも多量(約6割)に使用され,ほかにもフタル酸ジイソノニル(DINP),フタル酸ジ-n-オクチル(DOP),フタル酸ジブチル(DBP),フタル酸ジヘプチル(DHP)などがある.近年,フタル酸エステル類が,精巣毒性や女性ホルモンと似たはたらきをする環境ホルモン作用を示すことが報告されて問題となっている.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

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