動植物性の素材を含む製品(たとえば繊維,毛皮,木工品,標本)を虫害から守るために用いる薬剤で,それ自身には殺虫性はなくても,結果として害虫を忌避させる効果をもつものである。家庭のたんすに入れてあるナフタレンなどは古くから知られている例である。密閉された格納容器の中に揮発性のナフタレンを置き,これから出る蒸気が狭い空間で濃度を高められ害虫の忌避反応を生じるものである。ショウノウ,パラジクロロベンゼンなど多くの薬剤が同様に作用する。また刺咬性害虫から人畜を保護するためにナフタル酸ジメチルなどを直接皮膚に塗布したり,衣服にしみ込ませたりして防虫効果を生じるものも防虫剤の一例である。実用される殺虫剤のなかには防虫効果を示すものもあり,その点で区別があいまいであるが,繊維や木材にしみ込ませておき,食べた虫が死ぬような薬剤も防虫剤に含めていうのが普通である。この場合には薬効が虫の種類によって著しく違うので,使用目的に適した薬剤を選択する必要がある。たとえばラワン材によくつくヒラタキクイムシを防ぐには有機塩素系の化合物が有効であるが,人体に対しても有害なものが多いため,効果は少し弱いが毒性も少ない有機リン化合物,ホウ素化合物を代りに用いることが多い。繊維や羊毛の防虫には染色を兼ねて加工が行われることもあり,オイランU33,ミチンFF(ともに商標名)はこの目的に用いられる無色の染料である。
→防虫加工 →防虫木材
執筆者:善本 知孝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
通常使用する濃度や量ではかならずしも殺虫能力はないが、虫の忌避する臭(にお)いなどで寄せ付けないようにし、被害を防止する化学物質やその製剤をいう。
狭義には、衣類などの繊維製品を食害から守る薬剤をいう。繊維のうちとくに羊毛や絹などタンパク質繊維は食害を受けやすく、炭水化物の綿や麻は比較的加害されにくい。ポリエステルやポリアミドなど合成繊維は虫の栄養にならないから食害されない。イガ(衣蛾)とシミ(衣魚)は炭水化物とタンパク質の両方の繊維を、カツオブシムシの幼虫はタンパク質繊維だけを食害する。
衣類や毛皮のほか、書籍や標本などの防虫剤として古くから樟脳(しょうのう)やナフタレンが使われたが、現在ではより効果の高いパラジクロルベンゼンを使うことが多い。これらは常温で徐々に昇華(固体から液体を経ずに気体となること)して狭い間隙(かんげき)にまで浸透拡散する。害虫は触角や気門などでこの気体を感じ、虫にとって好ましくない性質なので忌避する。溶媒に溶かして繊維に吸着させ、半永久的に害虫の食害を予防するロテノン(デリスの根の成分)、合成化合物のオイランやミッチンなども防虫剤として実用化されている。
広義には、皮膚に塗りカなどの刺害を予防するジメチルフタレート、衣服に吸着させてノミやシラミの寄生を防ぐベンジルベンゾエートやN‐メチルアセタミドなど、あるいは木材に注入してシロアリの食害を防止するクロルデンなども防虫剤の一種である。
[村田道雄]
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