プリーストリー(読み)ぷりーすとりー(英語表記)John Boynton Priestley

日本大百科全書(ニッポニカ) 「プリーストリー」の意味・わかりやすい解説

プリーストリー(Joseph Priestly)
ぷりーすとりー
Joseph Priestly
(1733―1804)

イギリス神学者、化学者。初め長老派教会(カルバン主義によるプロテスタントの一派)の牧師であったが、しだいに正統派カルバン主義を排して、神の単一性を主張し、三位(さんみ)一体に反対し、イエスは神でないとするユニテリアニズムの見解をとるようになった。1782年に『キリスト教頽廃の歴史(たいはいのれきし)』History of the Corruptions of Christianityを出版したが、1785年に公権によって焼かれた。1786年『イエス・キリストに関する初期の歴史』History of Early Opinions Concerning Jesus Christ、1790年に『西ローマ帝国崩壊に至るキリスト教会史概観』General History of the Christian Church to the Fall of the Western Empireを刊行した。これら多くの著作による正統派への激しい神学攻撃によって反発を受け、1791年フランス革命に共鳴したためバーミンガムにあった家や研究室が破壊された。このためロンドンに逃れ、1794年アメリカに移住し、1796年フィラデルフィアにユニテリアン教会を創立した。一方、進歩的文化人であるワットやダーウィンらと交遊し、ベンサムらにも影響を与えている。また植民地政策や奴隷売買などにも反対した。

[平本洋子]

化学

ウォリントン・アカデミー講師時代(1761~1767)に科学研究を始め、『電気学の歴史と現状』(1767)により科学者として高い評価を受ける。リーズ時代(1767)教会隣のビール醸造所の発酵ガスに興味をもち、気体研究を始め、多種の新気体(一酸化窒素、二酸化窒素、二酸化硫黄(いおう)、アンモニア塩化水素、酸素など)を発見した(1770~)。これらの成果は『多種の気体および自然哲学の他の分野に関する実験と観察』(1790)にまとめられている。ソーダ水の調製を含む気体研究の最初の成果(1772)によりロイヤル・ソサイエティー(王立協会)からコプリー・メダルを授与される。酸素ガスの発見は彼の名を化学史上不朽にした業績である。1774年大きなレンズで煆焼(かしょう)水銀(酸化第二水銀)を加熱して得られた気体中でろうそくが空気中よりも長時間燃え続けることを知り、これをラボアジエに伝え、彼の新化学形成のきっかけをつくった。しかし、プリーストリー自身は、翌1775年それが新種の気体であることを確認したものの、「脱フロギストン空気」と命名し、終生フロギストン説立場でラボアジエに対抗した。また、植物がこの気体を放出することを発見し、光合成研究の端緒も開いた(1772~1778)。

[肱岡義人]

『J・G・クラウザー著、鎮目恭夫訳『産業革命期の科学者たち』(1964・岩波書店)』『F. W. GibbsJoseph Priestley : Adventurer in Science and Champion of Truth (1965, Thomas Nelson and Sons, London)』


プリーストリー(John Boynton Priestley)
ぷりーすとりー
John Boynton Priestley
(1894―1984)

イギリスの小説家、劇作家、評論家。イングランド北部の工業都市ブラッドフォードに教師の子として生まれる。会社勤めののち、第一次世界大戦勃発(ぼっぱつ)と同時に軍務に服した。のち、ケンブリッジ大学を卒業。1922年にロンドンに移るとジャーナリズム活躍を始め、小説『友達座』(1929)の大成功で文名を確立した。イギリス各地から集まった変わり者が偶然「友達座」を結成、各地を巡業して回る間の愉快な事件をピカレスク悪漢小説)風に描いたもので、その健全な人間生活の描写はディケンズの再来かといわれた。続いて一商社の没落にまつわる社員たちの市民生活を描く『エンジェル小路』(1930)でふたたび大成功を収めたのち劇作『危険な曲り角』(1932)でも人気を博した。地方の豪邸に集まった一見幸福な人々の間で、それぞれの人生の危険な曲がり角の真相が暴かれるが、結局それも無事に過ぎるさまを斬新(ざんしん)な作劇術で示し、日常の平凡な人生も密度の高いものに変えうるとする冷徹な見方に、作者の古風ながら急進的な姿勢がうかがえる作品である。ほかにも、『晴れた日』(1946)、『失われた帝国』(1965)など多数の小説、『夜の来訪者』(1947)をはじめ約50作に達する劇作がある。彼には深遠な思想はないが、イギリス文学に伝統的にみられる常識家の人間像の魅力とその描写が、長く人々の心をとらえている。評論にも『メレディス論』(1926)、『イギリス小説』(1927)、『イギリスのユーモア』(1929)、『文学と人間像』(1960)など多数の著作がある。多面的な顔をみせた活躍で、1977年にはメリット勲章を受けた。

[小野寺健]

『内村直也訳『夜の来訪者』(1952・三笠書房)』『内村直也訳『危険な曲り角』(『現代世界戯曲全集5』所収・1954・白水社)』『阿部知二他訳『文学と人間像』(1973・筑摩書房)』『三省堂編修所訳『演劇の歴史』(1975・三省堂)』『小池滋訳『英国のユーモア』『英国人気質』(1999・秀文インターナショナル)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「プリーストリー」の意味・わかりやすい解説

プリーストリー
Priestley, Joseph

[生]1733.3.13. ヨークシャー,フィールドヘッド
[没]1804.2.6. ノーサンバーランド
イギリスの化学者。急進的非国教徒の牧師。織物職人の家に生れ,ダベントリ学院卒業 (1755) 後,牧師の道を歩む。ウォリントン学院語学教師 (61) 。 2000名に及ぶ歴史的人物の『伝記図表』完成により,法学博士 (64) 。ロイヤル・ソサエティ会員 (66) 。 1774年ヨーロッパへ旅行し,この間に A.ラボアジエと会見。バーミンガムの「月光協会」会員 (80) 。非国教徒襲撃を意図したバーミンガム暴動事件 (91) を機にロンドン,さらにアメリカに逃れる (94) 。生涯を通じて大小 100以上の著作を出版しているが,大多数の神学に関するもののほかに,すぐれた科学史書『電気学の歴史と現状』 The History and Present State of Electricity (67) をはじめ,光学史 (72) ,また独自の唯物論哲学を述べた『物質と精神に関する論考』 Disquisitions relating to Matter and Spirit (77) などがある。プリーストリーの名を不朽のものとしたのは,主著『種々の空気についての実験と観察』 Experiments and Observations on Different Kind of Air (3巻,74~77) および『自然哲学のさまざまな部門に関連する実験と観察』 Experiments and Observations relating to Various Branches of Natural Philosophy (3巻,79~86) に収められた,化学の実験的業績であった (ロイヤル・ソサエティからコプリー・メダルを贈られている) 。酸素の発見をはじめとして,酸化窒素,塩化水素,アンモニア,亜硫酸ガスなど,種々の重要な気体の単離固定を行い,気体化学の発展に寄与したが,伝統的フロギストン説に最後まで固執していたため,理論的総合の面では同時代のラボアジエにその栄誉を譲った。

プリーストリー
Priestley, John Boynton

[生]1894.9.13. ヨークシャー,ブラッドフォード
[没]1984.8.14. ストラトフォードオンエーボン
イギリスの劇作家,小説家,批評家。ケンブリッジ大学卒業。評論『イギリスの小説』 The English Novel (1927) で認められ,巡業劇団の生活を描いた小説『友達座』 The Good Companions (29) によって名声を得た。以後,小説『エンジェル小路』 Angel Pavement (30) ,『彼らは町を歩く』 They Walk in the City (36) ,『魔術師たち』 The Magicians (54) ,戯曲『危険な曲り角』 Dangerous Corner (1932) ,『時とコンウェイ家』 Time and the Conways (37) ,『結婚しているとき』 When We are Married (38) ,『ヨルダンを越えるジョンソン』 Johnson over Jordan (39) を発表。第2次世界大戦後の人気作は,社会問題劇『夜の来訪者』 An Inspector Calls (46) 。ほかに『文学と西欧人』 Literature and Western Man (60) などエッセー多数。

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