ブラストサイジンS(読み)ブラストサイジンエス(英語表記)blasticidin S

改訂新版 世界大百科事典 「ブラストサイジンS」の意味・わかりやすい解説

ブラストサイジンS (ブラストサイジンエス)
blasticidin S



農業用抗生物質としてはじめて実用化された抗いもち病殺菌剤。放線菌Streptomyces griseochromogenesによって生産される。医薬用の抗生物質の開発に採用されているスクリーニング法と同様に,種々の土壌微生物代謝産物の中に,イネの重要病害いもち病の病原菌生育を抑制する物質を検索する過程で見いだされたものである。このような農業用抗生物質の開発研究は,世界に先がけて日本において開始されたもので,現在でも日本はこの分野の研究で先駆的役割を果たしている。ブラストサイジンSはいもち病菌の生育に対して強力な抑制作用を有し,カスガマイシンとならんで重要な抗いもち病用抗生物質である。タンパク質合成を阻害することによって抗菌力を発現する。哺乳動物に対する急性毒性は,50%致死量LD50=53.3mg/kgラット経口)である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ブラストサイジンS」の意味・わかりやすい解説

ブラストサイジンS
ぶらすとさいじんえす
blasticidin S

ブラエス粉剤、ブラエス乳剤などの商品名で、イネいもち病防除に使われている殺菌剤の有効成分の学術名。農薬の目的で研究、開発された抗糸状菌性抗生物質。1955年(昭和30)東京大学応用微生物研究所でストレプトミセス・グリセオクロモゲネスの培養液中から単離した水溶性塩基性物質で、核酸の塩基シトシンに糖とアミノ酸の結合したアミノアシルヌクレオシド型抗生物質に属する。白色針状結晶で、融点253~255℃。水と酢酸にはよく溶けるが、多くの有機溶媒にはほとんど不溶。pH4付近および8以上では不安定、紫外線に対しては比較的安定である。ラットの急性経口毒性はLD50(50%致死量)53.3mg/kg。魚毒性はコイのTLm8.7ppmでA類。イネいもち病のほか、トマト葉かび病、アマ立枯(たちがれ)病などに選択的に有効で、予防よりも治療効果に勝る。また、細菌の枯草(こそう)菌にも有効である。いもち病(Blast)菌を殺し(cidal)、枯草菌Bacillus subtilisにも活性を示すことが命名の根拠である。作用機構は、菌のタンパク合成過程中のアミノ酸のリボゾームへの転移、配列の決定や縮合の阻害と考えられ、実用濃度は5~40ppm。薬害軽減のため、ベンジルアミノベンゼンスルホン酸塩としたものが製剤中の成分として使われている。

[村田道雄]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ブラストサイジンS」の意味・わかりやすい解説

ブラストサイジンS
ブラストサイジンエス
Blastcidin S

放線菌の一種 Streptomyces griseochromogenesの生産する農業用抗生物質。ブラエスともいう。分子式 C17H26O5N8 。白色針状結晶。融点 235~236℃,水,アルコールに溶ける。いもち病防除剤として日本で開発された。いもち病菌の胞子発芽抑制,胞子形成阻止や菌糸の生育を阻害する効果があり,治療効果が強い。ナス科作物,クワ,サトイモなどに薬害が出やすく,また目に障害を生じやすいなど劇物として扱われる。

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百科事典マイペディア 「ブラストサイジンS」の意味・わかりやすい解説

ブラストサイジンS【ブラストサイジンエス】

農業用殺菌剤の一種。放線菌の生産物から分離した抗生物質。イネのいもち病に特効があり,病原菌菌糸の生長をおさえる力が強い。残効は短い。
→関連項目殺菌剤

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世界大百科事典(旧版)内のブラストサイジンSの言及

【抗生物質】より

…しかし,この残留性と慢性毒性が問題となり,また環境汚染などの問題も加わって利用できなくなり,新薬の開発が求められた。これが契機となって,ブラストサイジンS(住木諭介ら,1958),カスガマイシン(梅沢浜夫ら,1965)が開発された。そのほかイネの白葉枯病に対するセロサイジン(住木諭介ら,1958),イネの紋枯病に対するバリダマイシン(武田薬品工業,1971),モモの黒斑病とリンゴの斑点葉枯病などに対するポリオキシン(鈴木三郎ら,1958),うどんこ病に有効なミルディオマイシン(武田薬品工業,1983)などがある。…

※「ブラストサイジンS」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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