改訂新版 世界大百科事典 「カスガマイシン」の意味・わかりやすい解説
カスガマイシン
kasugamycin
1965年に奈良の春日大社の境内の土壌から分離された放線菌Streptomyces kasugaensisが生産する農業用抗生物質で,イネの重要病害の一つであるいもち病の防除に用いられる。薬剤はイネ体内に浸透移行して,いもち病菌Piricularia oryzaeの生育を阻止する。キャプタンという殺菌剤と混合するとトマトの葉かび病に有効で,また動物医薬としても用いられる。本剤は,タンパク合成を阻害することで,植物病原菌に殺菌作用を示す。きわめて毒性が低く(50%致死量LD50>2000mg/kg(マウス)),作物や土壌中の残留性が短いのが特徴である。カスガマイシンはいもち病菌が試験管内で生育するpHでは不安定で分解するので,通常の農業用抗生物質のスクリーニングに用いられる試験管内テストでは抗菌活性を示さない。いもち病を感染させたポット植えのイネを用いた生物試験ではじめてカスガマイシンが発見された事実は,スクリーニングにおける生物試験法の重要性を示すもので興味深い。
執筆者:高橋 信孝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報