改訂新版 世界大百科事典 「ブリヤサバラン」の意味・わかりやすい解説
ブリヤ・サバラン
Anthelme Brillat-Savarin
生没年:1755-1826
フランス美味学の祖。ディジョン大学で法律を修め故郷で弁護士となり,フランス革命前期までは国民会議議員や出身地の市長などを務め,法曹界・政界で活躍していたが,恐怖政治の際,亡命を余儀なくされ,ドイツ,スイス,アメリカを回り,コック見習い,フランス語教師,バイオリン弾きなど,余芸を生かしさまざまな職業を経験する。帰国後,駐ドイツ共和国参謀部の食卓係を経て,司法界に復帰,大審院判事として25年の余生を送り,その間に,法律関係の著作をものし,死の前年《味覚の生理学(美味礼讃)Physiologie du goût》を刊行した。粋人でありつつ,生涯独身を通したが,奇矯の人グリモー・ド・ラ・レニエールと対照的な良識ある教養人で,文学サロンに出入りし,モラリストのまなざしで,さまざまな人間を観察した。その集大成が《味覚の生理学》で,そこでは人間のもつ五感(視・聴・嗅・味・触)のうち,それまで十分考察されたことのない味覚について,身体的・社会的な総合的視野に立って検討を加えた。逸話,省察,警句,学問的知識よりなる本書が多くの読者をつかんだのは,その主題の新鮮さもさることながら,彼の唱える第6番目の感覚(性)に対する作者の関心が,隠し味としてきいているためであろう。
執筆者:細川 哲士
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報