一般的には,権力を掌握した党派ないし個人が,武力ないし暴力を背景とし,反対派に対する逮捕,投獄,処刑,殺害などの手段を用い,民心をして恐怖せしめることによってみずからの権力の維持とその政策の貫徹とを図ろうとするような政治形態をいう。そのような一般的な意味では,テロリズムともいう。だが,歴史的には,フランス革命期の1793年から94年にかけて行われた革命的独裁政治が,断頭台などによる大量処刑を伴ったために恐怖政治と呼ばれており,狭義の恐怖政治は,この時期のフランスの政治形態を指す。
フランス革命期の恐怖政治は,革命の敵と見なされた者に対する民衆の自然発生的な殺害や暴行に端を発し,1793年秋からは,革命政府の手で反革命派ないし政府反対派に対する広範で組織的な投獄・処刑が強行されるにいたったが,そのような事態が生じた背景には,外国軍の侵入と国内の反革命内乱の発生という深刻な危機的状況があった。まず,1792年8月10日に,国境の危機を前にして蜂起したパリの民衆によって立憲王政が倒された直後,9月2日から5日にかけて,パリの民衆は各所の監獄に侵入して監禁されていた反革命容疑者など1100人以上を虐殺した。いわゆる〈最初の恐怖政治〉である。93年1月に国王ルイ16世が処刑されたのち,第1次対仏大同盟の結成による戦局の悪化や反革命内乱の深刻化に直面して,革命を防衛し遂行するための強力な中央集権的統治が必要とされ,同年10月に,憲法によらない非常体制としての革命政府が樹立され,組織的な恐怖政治が行われることになった。ジロンド派を追放して議会(国民公会)の主導権を握った山岳派(ジャコバン派)は,議会内に設置された公安委員会に権力を集中し,革命遂行のための諸政策を強行すると同時に反対派の弾圧を強化したため,恐怖政治は山岳派独裁の武器になった。93年3月10日に創設されていた革命裁判所は,同年9月に制定された反革命容疑者法に基づいて大量に投獄された反対派(反革命的な貴族や聖職者,ジロンド派,反革命内乱参加者など)の多数を迅速に断頭台に送った。経済政策としては,民衆の生活を安定させるための価格統制(最高価格法)や食糧の徴発などが励行されたほか,亡命貴族の財産が没収され,同時期には反革命容疑者の財産を没収する法律(バントーズ法)さえもが可決された。同時期に,山岳派内部に分派闘争が生じて,ロベスピエール派が左翼のエベール派と右翼のダントン派を処刑し,恐怖政治は最高潮に達したが,同年7月27日(テルミドール9日)にロベスピエールが失脚,恐怖政治は終りを告げた。革命裁判所の創設から94年8月までに死刑を宣告された者は1万6594人に達したが,地方の反革命内乱で裁判もなく処刑された者や獄死した者を加えると,恐怖政治による死者は3万5000ないし4万人に上ると推定されている。なお,テルミドール以後には,逆に,右翼による白色テロル(ジャコバン派などに対する報復処刑)が全国的に横行したが,それはもっぱら裁判によらない私刑のかたちをとったため,その犠牲者数は明らかではない。
執筆者:遅塚 忠躬
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フランス革命期における、1793年6月から94年7月までの革命的テロリズムによる政治。このテロリズムは、反革命容疑者から国民と革命とを防衛することを本来の目的とし、92年9月のいわゆる「九月虐殺」で初めて日程に上った。山岳派(モンターニュ派)の権力掌握ののちロベスピエールがその制度化を志し、93年9月に反革命容疑者法として整備され、王妃マリ・アントアネットやジロンド派の処刑に役だった。その後、逮捕者の急増に対処しようとして、94年6月のプレリアール(草月)22日法が制定され、以後7月のテルミドールの反動まで恐怖が吹き荒れ、パリでは6週間に1376人がギロチンにかけられた。恐怖政治の全期間を通してみれば、50万の収監者のうち3万5000から4万人が死刑に処され(うち1万から1万2000人は裁判なしの処刑)、獄中での死亡は数千人であった。
恐怖政治の機関は、パリでは公安委員会、革命裁判所、地方では派遣議員、監視委員会であったが、恐怖政治の激化は、独裁の基盤である民衆の活力をも減退させ、反動の一因となった。
[樋口謹一]
フランス革命において1793年5月31日,6月2日事件によるジロンド派没落から94年7月のテルミドール反動に至る期間の政治体制。公安委員会,保安委員会,革命裁判所,地方派遣議員を主たる機関とする革命的テロリズムとともに,最高価格令,食糧徴発制に示される統制経済をも含む。
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