改訂新版 世界大百科事典 「プーリア」の意味・わかりやすい解説
プーリア[州]
Puglia
イタリア南部の州。面積1万9347km2,人口402万(2001)。イタリア半島の南東部を占め,アドリア海に沿っており,南東端のサレント半島の南岸はイオニア海のターラント湾に臨んでいる。フォッジア,バーリ,ターラント,ブリンディジ,レッチェの五つの県があり,州都はバーリ。山がちなイタリアのなかで,この州はほとんどが平野もしくは台地上の丘陵で,北西部のアドリア海に突き出たガルガノ半島およびモリーゼ,カンパニア両州との境界が山地をなしている程度で,標高1000mを超える山はわずかである。
フォッジア県に広がるタボリエーレ(卓状地)と呼ばれる平野には,オファント川をはじめいくつかの河川が横切っているが,それらは海岸近くで湿地帯をつくり,かつてはマラリアの温床となっていた。昔は放牧が営まれていたこの平野は,今日は灌漑が行き届き,穀物,ブドウなどの集約的耕作が行われている。その南東部,長さ150km,幅50kmにわたり,州の中核をなしているムルジェ台地(標高400~650m)からさらにその南東部のサレント半島までの全域は石灰岩質で,カルスト地形がみられ,乾燥した気候も手伝って,水不足が問題となってきた。とりわけムルジェ台地の内陸部では,植生の乏しい不毛な風景もみられる。しかしアドリア海沿岸地域は土地は肥沃で緑も多い。平地に恵まれ,交通上も障害の少ないこの地方は,遅れた南部のなかでは経済開発が比較的順調に進んでいる。かつての大土地所有制下での粗放的農業経営は,第2次大戦後の農業改革により,とくにタボリエーレにおいて資本主義的経営あるいは直接耕作者による集約的農業に変わり,フォッジアが農産物集散地として発展してきた。ムルジェ台地やサレント半島地方は,オリーブ,アーモンドなどの伝統的樹木栽培が支配的である。オリーブの生産量は,イタリア第1位を誇り,ブドウ酒の製造量も全国の20%を占める。
工業も第2次大戦後の発展はほかの南部諸州に比してめざましく,ターラントの大製鉄所,ブリンディジの石油化学コンビナートの建設は,南部工業開発の牽引車的役割を期待された。この二つの都市と,中小企業を中心とした工業発展および州の中心都市としての商業活動機能をもつバーリが,三角工業地域を形成している。しかし,基幹産業部門中心の工場誘致,工業化地域の偏在には問題も多い。近年は観光開発も盛んで,ガルガノ半島,海水浴場に適する長い海岸線,内陸地域に多い鍾乳洞などのほか,アルベロベロを中心に散在する蟻塚のような独特の民家トルリなども観光の対象となりつつある。
紀元前8世紀ごろからターラント(古称タレントゥム)をはじめギリシア植民市が建設されたこの地方は,次いでローマ帝国下でも繁栄した。その後ビザンティン支配,ノルマン人の征服と続き,ナポリ王国下で封建制が強化され,経済的に衰退していった。イタリア統一後は,低い生産水準の農業に従事するブラッチャンティと呼ばれる日雇労働者たちの海外移民を多く出した。
執筆者:萩原 愛一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報