改訂新版 世界大百科事典 「ベニシダ」の意味・わかりやすい解説
ベニシダ
Dryopteris erythrosora (Eaton) O.Kuntz.
本州の東北以南の暖地の山野に普通にみられる,オシダ科の常緑多年生シダ植物。朝鮮半島南部や中国大陸にも分布している。芽立ちの際の新葉が鮮やかな紅紫色を帯びるので,この和名がある。根茎は半地中性で,斜上から直立し,葉を叢生(そうせい)する。葉は新葉では紅紫色から淡紅色に色づくが,まれに緑色のものもある。葉柄は長さ20~50cm,基部に褐色から黒褐色の細い鱗片を密生する。葉身は卵状長楕円形,鋭尖頭,2~3回羽状に分裂し,長さ25~70cm,幅15~30cm。羽片は広披針形から長三角形で,先端は尾状に伸びる。羽軸や小羽軸の裏面には袋状の小さな鱗片が多い。胞子囊群は小羽片の中肋寄りまたは辺縁との中間に生じ,若い包膜は円腎形で,通常紅紫色を帯びる。変異が多い種類であり,トウゴクシダやマルバベニシダ等の近縁種,オオベニシダやサイゴクベニシダ,ギフベニシダ等の近似種も多く,分類は容易ではない。変種にホコザキベニシダvar.koidzumiana (Tag.) H.Itoがあり,九州南部から沖縄に分布している。狭い意味でのベニシダは,低地のスギ林や落葉樹林等にもみられるが,その分布からみて,もとは照葉樹林に結びついていた種と思われる。英名のautumn fernは,新葉の色を秋の紅葉に見たてたもの。
執筆者:光田 重幸
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報