日本大百科全書(ニッポニカ) 「ベンジャミン鉱」の意味・わかりやすい解説
ベンジャミン鉱
べんじゃみんこう
benjaminite
基本的には銀、鉛および蒼鉛(そうえん)の硫塩鉱物であるが、少量成分として銅および鉛を含むことがある。1924年に行われた原記載が多量の鉛を含む混合物を取り扱ったため、一時は混合物として抹消されかかったが、1975年の再検討で初めて化学組成と結晶学的性質が確定し、1981年Ag3Bi7S12という理想式が確立された。自形はb軸方向に伸びた長板状。独立した結晶でなく反射顕微鏡下で観察される集合物の組織から判定される。
浅~深所生成熱水鉱脈型鉱床に産し、ニッケル、コバルト、ヒ素、金、銀鉱物を産するものや、他の蒼鉛鉱物を多産するものなど、鉱石鉱物の組合せにかなり変化がある。日本では兵庫県朝来(あさご)市生野(いくの)鉱山(閉山)の熱水鉱脈型鉱床の一部から、錫(すず)石、方鉛鉱、閃(せん)亜鉛鉱などとともに石英脈中に産する。共存鉱物は、黄銅鉱、閃亜鉛鉱、黄鉄鉱、硫砒(りゅうひ)鉄鉱、自然金、自然銀、自然蒼鉛、輝蒼鉛鉱、輝水鉛鉱、紅砒ニッケル鉱、ラムメルスベルグ鉱rammelsbergite(化学式NiAs2)、石英、方解石、菱(りょう)鉄鉱など。同定は錆(さ)びていれば見当がつくことがある。類似組成のパボン鉱pavonite(AgBi3S5)と比べると硬度が高い。類似組成のマチルダ鉱などとともに、輝蒼鉛鉱などと比べると鉄黒色ともいうべき色調の強さがみられるが、慣れないとわからない。命名はアメリカ・国立博物館の出版物編集長であったマーカス・ベンジャミンMarcus Benjamin(1857―1932)にちなむ。
[加藤 昭 2018年7月20日]