日本大百科全書(ニッポニカ) 「マチルダ鉱」の意味・わかりやすい解説
マチルダ鉱
まちるだこう
matildite
銀(Ag)とビスマス(Bi)を含む金属鉱物。和名としてはマティルダ鉱も用いられる。AgBiS2という理想式からは、銀と蒼鉛(そうえん)の硫塩鉱物という印象を受けるが、原子配列上、ビスマスの周囲に硫黄(いおう)(S)原子の顕著な集合はみられないので、現在は方鉛鉱類似の複硫化物として取り扱われ、マチルダ鉱群を形成する。シャップバッハ鉱Schapbachite(化学式AgBiS2)は方鉛鉱と同構造の高温変態と考えられており、合成物の実験結果では転移点225℃とされる。自形の存在は不確実。
中~深熱水性鉱脈型金・銀鉱床中に産し、また、まれにペグマタイト中に産する。日本では栃木県日光市西沢鉱山(閉山)のものが世界的に有名である。共存鉱物は西沢鉱山では、自然金、方鉛鉱、閃(せん)亜鉛鉱、黄銅鉱、石英など。同定は西沢鉱山のものは前記共存鉱物と層状構造をなして産する点で特徴があるが、外国産のものの観察のみによる同定は困難である。見かけは鉄黒色、条痕(じょうこん)は銀色の要素が強い。命名は原産地のペルー、モロコーチャMorococha地方、マチルダMatilda鉱山に由来する。
[加藤 昭 2018年10月19日]