日本大百科全書(ニッポニカ) 「ペルツ」の意味・わかりやすい解説
ペルツ
ぺるつ
Max Ferdinand Perutz
(1914―2002)
イギリスの生化学者。オーストリアのウィーン生まれ。ウィーン大学に学び化学の教育を受けたのち、1936年イギリスに渡る。ケンブリッジ大学のキャベンディッシュ研究所に入り、J・D・バナールのもとでX線結晶学を学んで1940年に学位(博士号)を取得。その1年前の1939年W・L・ブラッグの助手となり、1947年キャベンディッシュ研究所に新設の医学研究会議(MRC:Medical Research Council)の分子生物学部門の主任となる。1962年この部門が研究所に昇格したときその所長となった(~1979)。また、ロンドンの王立研究所のデービー・ファラデー研究所の講師(1954~1968)、ヨーロッパ分子生物学機構(EMBO:European Molecular Biology Organization)の議長(1963~1969)も務めた。1937年以来X線回折法を駆使して、球状タンパク質の一種である血液のヘモグロビン結晶を対象にその立体構造の解明を目ざし、1953年同形置換法などを開発、1958年三次元フーリエ解析によるヘモグロビンの分子モデルを発表した。そして同じく球状タンパク質の一種であるミオグロビンの三次元モデルを同年に発表したJ・C・ケンドルーとともに、1962年ノーベル化学賞を受けた。なお、タンパク質と並んで生命現象を担う基本的物質である核酸の構造研究を対象として、同じ1962年のノーベル医学生理学賞がF・H・C・クリック、J・D・ワトソン、M・H・F・ウィルキンズの3人に与えられたが、ペルツ、ケンドルーの2人を加えた5人がそろってキャベンディッシュ研究所員であったことは、研究環境ということを考えるうえで興味深い。著書は『分子生物学入門――タンパク質・核酸その構造と機能』Proteins and Nucleic Acids: Structure and Function(1962)、『生命の第二の秘密――タンパク質の協同現象とアロステリック制御の分子機構』Mechanisms of Cooperativity and Allosteric Regulation in Proteins(1990)、『タンパク質――立体構造と医療への応用』Protein Structure : New Approaches to Disease and Therapy(1992)など多数ある。
[梅田敏郎・道家達將]
『水野傳一・飯高洋一・岡本季彦訳『分子生物学入門――タンパク質・核酸その構造と機能』(1965・東京大学出版会)』▽『資林利彦・今村保忠訳『生命の第二の秘密――タンパク質の協同現象とアロステリック制御の分子機構』(1991・マグロウヒル出版)』▽『M・F・ペルツ著、中馬一郎訳『科学はいま』(1991・共立出版)』▽『黒田玲子訳『タンパク質――立体構造と医療への応用』(1995・東京化学同人)』