オランダの物理学者のホイヘンスが1690年に光の波動説の基本原理として述べた、波の伝播(でんぱ)に関する仮説である。波面(波の位相が同じ値をもつ点からなる曲面)上の各点から、新たに二次波(素元波)が球面波として送り出される。これらの二次波の波面のすべてに接する曲面、すなわち包絡面(ほうらくめん)が、その後の時刻における波面になるとする。ホイヘンスはこの原理を用いて、よく知られた光の三性質、すなわち、一様な物質中における直進、異なる物質の境界面における反射と屈折を説明した。しかし、ホイヘンスの原理には二つの難点があった。その一つは、前進する波のほかに、後退する波の波面も生ずることになる点であり、他の一つは、光が不透明な物体に当たった場合におこる回折現象の説明ができない点である。
フランスのフレネルは1818年、ホイヘンスの原理の後半部を修正して、前に述べた欠点を補った。フレネルによれば、一次波の波面上の各点から送り出される二次波の振幅は、その進行方向によって異なる。一次波と二次波の進行方向が同じ場合には振幅が最大、逆方向の場合には振幅がゼロで、一次波、二次波の進行方向の間の傾き角の増大とともに二次波の振幅は減少するものとする。これらの二次波は重ね合わせられ、互いに干渉する。フレネルによって修正されたホイヘンスの原理は、ホイヘンス‐フレネルの原理とよばれる。ドイツのキルヒホッフは1882年に、波を表す関数の満足する偏微分方程式、すなわち波動方程式から出発して、ホイヘンス‐フレネルの原理を数学的に証明した。
[飼沼芳郎]
波が広がっていくとき,波の谷または山のように位相の同じ点を連ねた面を波面という。波面が平面のときこれを平面波といい,波面が球面のときこれを球面波という。波面と波の進行方向は互いに垂直である。波面の伝わり方を説明するには,ある時刻における波面上の各点が波源になって新しい球面波を送り出すと考えればよい。この新しい球面波を二次波といい,次の波はこれら二次波の包絡面によって与えられる。これをホイヘンスの原理という。この原理は,オランダの物理学者C.ホイヘンスが,光の波動説で,光波の進行状態を作図するのに用いたものである。彼はこの原理から反射,屈折の現象を説明した。のちにA.フレネルはこれを拡張し,二次波の干渉から回折の現象を説明した。またG.キルヒホフは波動方程式をもとにした回折理論を展開し,ホイヘンスの原理の理論的基礎を与えた。
執筆者:朝倉 利光
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…ホイヘンスは光の速さが有限であること,交差する光が互いに妨げ合わないことから光を媒質を伝わる波とみなしたのであり,彼の波動説の本質は,〈媒質中に波動の源を囲む任意の閉曲面を考え,波がこの面上に到達すると,その各点が新しい波動の源となって球面波を送り出す。この閉曲面の外側の点における振動は,その点でのこれら球面波の重ね合せとして与えられる〉というホイヘンスの原理に示されている。ホイヘンスの原理は,光が直進すること,反射の法則,そして伝わる速さの異なる二つの媒質の境界で波動が屈折することを説明できたが,当時はニュートンの権威が学会を支配しており,粒子説のほうが主流であった。…
…初期には光学器械の改良に関連し,レンズの屈折,倍率,球面収差を研究したが,複屈折現象の理論的説明を試みる中で,しだいに光の本性の問題を扱うようになった。彼はR.フックやI.G.パルディースらとは異なって発光体の微粒子を考えながらも,彼らと同様光の波動説を主張し,光の伝搬に関するホイヘンスの原理を確立して,これに基づいて光の反射,屈折,複屈折などの現象に説明を与えた。これらの成果は《光についての論考》(1690)にまとめられているが,この間には光学研究をもとに改良された望遠鏡を用いることで,土星の衛星(チタン)を発見している(1655)。…
※「ホイヘンスの原理」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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