ホイヘンス(読み)ほいへんす(英語表記)Christiaan Huygens

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ホイヘンス」の意味・わかりやすい解説

ホイヘンス
ほいへんす
Christiaan Huygens
(1629―1695)

オランダ物理学者ホイヘンス家は父・祖父ともに大臣を務めたハーグ名門であり、彼は外交官になることを求められ、幼少のころは祖父から教育を受け、1645年にライデン大学に入学、法律と数学を学んだ。この間にメルセンヌと知り合い、デカルト影響を受けた。1647年から1649年までオレンジ大学で法律を学んだが、ウィレム2世WillemⅡ(1626―1650)の死により、外交官になる機会を逸し、1650年ころより科学研究に没頭し始めた。1666年まではハーグの自宅で研究を続け、1660~1661年にはパリ旅行の際にパスカルと出会った。この間の業績により1666年にフランスの科学アカデミー設立に際し、外国会員となり、この年より1681年までパリに在住。その後はふたたびハーグに戻った。1689年にはイギリス旅行のとき、ニュートンと会った。1695年、長い病の末に没した。

 科学的業績は多岐に渡る。1650年に『液体に浮かぶものに関する三巻』で静力学を、1651年に『双曲線楕円(だえん)・円の求積に関する諸定理』で求積法を、また1657年には『賭(か)けにおける計算について』で確率論をそれぞれ論じた。一方、実用的な問題も扱い、ガリレイの発見した振り子の等時性と、ばね運動歯車時計を結び付けて時計の改良を行い、1658年に『時計』を著した。1659年にはサイクロイドの等時性を発見、1673年には大著『振子時計』を出版し、振子時計の製作も続けた。

 1652年から望遠鏡などの光学機械の改良にも取り組み、1655~1656年には自作の望遠鏡で土星の衛星と環(わ)を発見し、1656年『土星の衛星に関する新発見』および1659年『土星の体系』を出版した。また球面収差・色収差などの屈折光学の研究も行ったが、これらの成果は死後1703年に『屈折光学』として出版された。その一方で、1670年ころから複屈折現象を解明する過程で、光の本性の問題を扱い始め、素元波や楕円波面などの概念を用いた光の波動論に達し、1690年『光についての論考』を発表した。

 1652年ころより衝突の問題を扱い、デカルトの衝突の法則を修正して、1656年に運動量の保存則を再定式化した。この成果は死後1703年に『衝突による物体の運動について』にまとめられた。1659年には『遠心力について』、1690年には『重力原因論』を著した。多くの業績にもかかわらず、ホイヘンスの説を引き継ぐ研究者は当時少なく、たとえば、光の波動論は19世紀に入ってようやく受け入れられた。この理由としては、ニュートンの影響が大きかったことが考えられる。

[河村 豊]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ホイヘンス」の意味・わかりやすい解説

ホイヘンス
Huygens, Christiaan

[生]1629.4.14. ハーグ
[没]1695.7.8. ハーグ
オランダの物理学者,天文学者,数学者。ライデン大学とブレダ大学で法律,数学,自然哲学を学んだ。ロイヤル・ソサエティ会員(1663),フランス王立科学アカデミーの外国人会員(1666)。早くから曲線の求積などの数学上の研究で頭角を現し,微積分学の形成に寄与した。兄コンスタンチンと望遠鏡を改良,1655年土星の衛星(→チタン)を発見,それとともにそれまで伴星やハンドルなどと想像されていた土星の輪を輪として同定した。1656年振り子時計を完成し,振り子の力学を研究した。1660年イギリスを訪問,1666年パリに招かれ 1681年まで滞在した。主著『振り子時計』Horologium Oscillatorium(1673)では,衝突論,縮閉線(特にサイクロイド曲線)の研究,円運動の遠心力理論,重力理論など貴重な研究成果を発表。1678年衝撃波の伝播に関するホイヘンスの原理を主体とする光の波動説を展開(『光についての論考』Traité de la Lumière,1690),特に結晶の複屈折現象の解明に力を注いだ。

ホイヘンス
Huygens, Constantijn

[生]1596.9.4. ハーグ
[没]1687.3.28. ハーグ
オランダの詩人。 C.ホイヘンスの父。公使秘書としてイギリスに派遣され,またオランニェ家秘書をつとめた。主著,詩集『矢車菊』 Korenbloemen (1658,72) ,笑劇『トレイニェ・コルネリス』 Trijnje Cornelis (53) 。

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