日本大百科全書(ニッポニカ) 「バニヤン」の意味・わかりやすい解説
バニヤン
ばにやん
John Bunyan
(1628―1688)
イギリスの宗教作家、伝道者。ベッドフォード州の小村エルストウの鋳掛屋の息子に生まれる。小学教育のみで父の仕事につく。17歳で政府軍に徴集され、ピューリタンの内戦に従軍し2年後除隊、家業に戻る。服務中に急進的プロテスタント諸派の人々と接し、伝統的体制教会を否定し、個人に顕現する神の恩寵(おんちょう)に頼ろうと決意する。従軍中の体験はのちに『聖戦』(1682)にまとめられ広く読まれる。1653年ベッドフォードの非国教会派に入り、説教活動を行いクェーカー教徒と対立した。彼の読書体験は主として聖書で、それにジョン・フォックスJohn Foxe(1516―1587)の『殉教者伝』、それにアーサー・デントArthur Dent(?―1607)の『庶民の天国への道』などわずかなものに限られたが、宗教的熱情はきわめて激しく、精神的苦悩から一時は教会の鐘を人間に快楽を与える悪魔のしわざとして嫌悪するほどであったが、バプティストとなってようやく心の平安を得た。この間の魂の遍歴については自伝『あふるる恩寵』(1666)に詳しい。これは、無免許で説教を行ったかどで捕まり、1660年から12年間の投獄生活の間に執筆された著作の一つ。その後チャールズ2世の信仰自由令により釈放、ふたたびベッドフォードの教会牧師となるが、重なる国法の変革で1675年再投獄、6か月後に釈放される。この間に『天路歴程』の前編が書かれた。これに後編が加わって、1684年全編出版の運びになる。聖書に通じる簡素・高雅な文体で、苦難や誘惑に屈せず天の都に達する主人公クリスチャンの行動が人々の感動をよび、ロングセラーとなった。ほかに評価される著作として『悪太郎の一生』(1680)がある。該博な聖書の知識、豊かな想像力、的確な表現力は抜群で、ミルトンの壮麗さは欠くが屈指のピューリタン作家の一人として、その後の英国散文に与えた影響は大きい。
[船戸英夫 2018年1月19日]
『高村新一訳『バニヤン著作集』全5冊(1969・山本書店)』