ボレル(読み)ぼれる(その他表記)Félix Edouard Emil Borel

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ボレル」の意味・わかりやすい解説

ボレル
ぼれる
Félix Edouard Emil Borel
(1871―1956)

フランス数学者。測度論のボレル集合位相空間のハイネ‐ボレルの定理、確率論のボレル‐カンテリの定理などで有名であるが、俗にボレル叢書(そうしょ)とよばれる一連の書物で、結果的に集合論の普及に大きく貢献した。思想的にはいわゆるフランス経験主義学派の有力者であったが、彼の無限の階列の研究も、準解析関数も、現在顧みると当初の期待ほど主流にならず、むしろ忘れられた感がある。確率論の著書も有名である。「10-6,10-15,10-50がそれぞれ個人的、社会的、宇宙的尺度で無視してよい確率の限界」という語は、よく引用される一つの標準である。彼は政治家でもあった。しかし彼の師であり先輩であり首相にもなったパンルベと比べると、その後継者といわれながら、たいへん保守的であり、力量も及ばなかった感じである。

[一松 信]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「ボレル」の意味・わかりやすい解説

ボレル
Émile Borel
生没年:1871-1956

フランスの数学者,政治家。アベイロンに生まれ,エコール・ノルマル・シュペリウールを卒業。1909年にパリ大学が関数論の講座を新設し,ボレルを教授に任命した。第1次世界大戦が勃発してから,ボレルは旧友P.パンルベの担当する陸軍省のために研究開発の組織を作った。このころからボレルは応用数学に興味をもち,戦後にはパリ大学で確率論と数理物理の講座に移った。21年アカデミー・デ・シアンス会員,24年急進社会党の国会議員となり,翌年海軍大臣となった。また国立学術研究センターやポアンカレ研究所などの設立の中心となり,この研究所の所長を死の年までつとめた。数学に関しては,G.カントールの集合論に興味をもち,ハイネ=ボレルの被覆定理やボレル集合を論じて測度論にも触れ,H.ルベーグの測度・積分論先駆の一つとなった。またピカールの小定理を初等的に証明し(1896),後年のR.ネバンリンナ有理型関数の値分布論に発展するいとぐちを与えた。

 関数論,微分方程式論,位相幾何学から代数幾何学などに及ぶ50冊を超える数学双書の監修をし,また解説書《偶然論》《空間時間》も名著として知られる。
執筆者:


ボレル
Pétrus Borel d'Hauterive
生没年:1809-59

フランスの詩人作家。本名Pierre Borel d'Hauterive。リヨン生れ。ネルバルらとともにいわゆる〈小ロマン派Petits Romantiques〉の世代に属する風変りな人物で,みずから〈狼人Lycanthrope〉と称する。《ラプソディ》(1832)のような詩集,《シャンパベール,背徳物語集》(1833),《ピュティファル夫人》(1839)などの小説には,独自のダンディズムと反社会的態度があらわれており,〈黒いユーモア〉的な要素も多分にある。ボードレールには評価されたが,その後シュルレアリストによって再評価されるまで,長く忘れられていた。1846年アルジェリアに渡り,同地で没。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ボレル」の意味・わかりやすい解説

ボレル
Borel, Pétrus

[生]1809.6.28. リヨン
[没]1859.7.14. アルジェリア,モスタガネム
フランスの詩人,小説家。本名 Joseph Pierre Borel,のち Borel d'Hautérive。「狼人」 Lycanthropeと名のる。いわゆる小ロマン派の一人として,雄弁な反逆の詩集『ラプソディー』 Rhapsodies (1832) を著わし,次いで怪奇趣味に満ちた幻想小説集『シャンパベール』 Champavert,contes immoraux (33) ,『ピュチファール夫人』 Madame Putiphar (39) を書いた。生前は名を知られず,1846年アルジェリアに官吏の職を得たが,55年以後ぼろをまとってゴシック風の館にこもり生涯を終えた奇人。シュルレアリストたちによって評価された。

ボレル
Borel, (Félix-Édouard-Justin) Émile

[生]1871.1.7. センタフリク
[没]1956.2.3. パリ
フランスの数学者,政治家。エコール・ノルマル・シュペリュール (高等師範学校) の講師 (1896) 。パリ大学教授 (1909) 。関数論,確率論に多くの業績を残し,ボレル集合の導入で知られる。政治にも関心を示し,海軍大臣 (25~36) などもつとめた。第2次世界大戦中ビシー政権下で逮捕,投獄され,のちにレジスタンスに加わった。レジオン・ドヌール勲章 (50) ,第1回の国立科学研究所金賞 (55) などを受賞。著書『偶然』『空間と時間』は邦訳が刊行されている。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「ボレル」の意味・わかりやすい解説

ボレル

フランスの作家。建築と絵を学んだ後,ジャーナリストとなり,ゴーティエらのロマン派詩人のサークルに加わる。詩集《ラプソディ》,短編集《シャンパベール》のほか,《ロビンソン・クルーソー》の翻訳で知られる。

ボレル

フランスの数学者,政治家。1909年―1941年パリ大学教授。1924年―1936年共和社会党の下院議員となり,1925年パンルベ内閣の海相。関数論,確率論等に業績があり,独自の科学批判を展開,また《空間と時間》《偶然論》などすぐれた解説書を書いた。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、和歌山県串本町の民間発射場「スペースポート紀伊」から打ち上げる。同社は契約から打ち上げまでの期間で世界最短を目指すとし、将来的には...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android