翻訳|automation
機械の操作を人間にかわって制御する機械的・電気的機構。1948年、アメリカのフォード自動車会社で、新しく設けたエンジン加工の自動化の研究部門に対して、副社長ハーダーがオートメーション部と名づけたのが始まりといわれている。オートマチックautomaticとオペレーションoperationを省略して結合した新造語である。
[中山秀太郎]
自動的に動くものをつくろうという考えはかなり古くからあった。労働を軽減するために自動機械をくふうしただけではなく、自動的に動くものに興味をもっていたのである。アレクサンドリアのヘロンは紀元前1世紀ごろに、神殿の扉を自動的に開閉する装置を製作した。神殿の前にある祭壇に火をともすと、祭壇の中の空気が熱によって膨張し、祭壇の地下に仕掛けてある容器に入っている水を隣の容器に押し出す。その容器は重くなって下がりながら、扉の軸に巻き付けてある綱を引っ張り、扉を開くのである。火が消えると空気は収縮し、水はもとの容器に戻る。扉の軸に巻き付けてある別の綱は、その端に結び付けてある石の重みで引っ張られて、扉の軸を前とは逆方向に回し、扉は閉まるのである。またヘロンは、寺院に備え付けてある聖水を入れた容器に貨幣を入れると、下の出口から聖水が流れ出す装置もくふうした。今日の自動切符販売機の元祖である。
ギリシアの科学者クテシビオスは自動的に動く水時計をつくった。容器に流れ込む水が浮きを徐々に持ち上げ、人形が手に持っている杖(つえ)の先端が円筒に記された時刻をさすようになっている。浮きがいちばん上まで押し上げられると、サイフォンによって円筒内の水は外に排出され、人形はいちばん下まで降りてしまい、ふたたび水が浮きを押し上げる運動を繰り返す。
ねじを研究したギリシアのアルキメデスは、ねじを利用して水を高所にくみ上げる装置をくふうした。円筒形の筒の中にねじを入れたもので、これを斜めにし下方を水の中につけて回転させると、水はねじの谷の中に入り、しだいに上方に移っていく。これは、ホースを筒に螺旋(らせん)状に巻き付けたものと同じである。このアルキメデスのねじを描いた絵の中に、自動的に「永久に運動する」機械装置を表したものがある。ねじを回転すると、水は高所に登っていき上のタンクにくみ上げられる。タンクの水は出口から下に流れ落ちて水車を回す。水車の軸は回転し歯車装置でねじを回すようになっている。ねじが回れば下方の水は上方のタンクにくみ上げられ、また落下して水車を回すということで、この装置は「永久に動き続ける」仕掛けになっている。
「永久に動き続ける」機械装置は、その後も数多く考えられた。毛細管を上っていく水を利用したもの、浮力を利用したもの、磁石を利用したもの、重力を利用したものなどいろいろあるが、外からエネルギーを供給しないで永久に動き続ける機械装置は実現不可能ということは、19世紀後半になるまでわかっていなかった。
[中山秀太郎]
1370年ドイツの時計師ド・ビックHenry de Vicは、パリで教会の塔に据え付ける時計を製作した。ドラムに巻き付けた綱におもりを取り付け、おもりの落下によるドラムの回転を利用して針を動かすものであった。ドラムに巻き付けてある綱が全部ほどけたときには、人間がドラムを回して綱を巻き、おもりをいちばん上まで持ち上げるという手仕事はあったが、いったん巻き上げれば、あとは自動的に時計は動く。ここで重要なことは、ドラムの回転を一定速度にしなければならないことである。指針は一定の速さで回る必要がある。そのために逃し車を経て回転木戸を回す装置がついている。回転木戸の両端には小さな分銅が下がっていて、回転木戸の回る速度を制限している。回転木戸が左右にゆっくりと振れるので、ドラムはゆっくりと回る。速度を一定にするためにつけられたこの装置は、自動的に動く機械にとってきわめて重要であった。しかし、回転木戸による速度制御方法はそれほど正確には動かなかった。
1660年ごろオランダのホイヘンスは、ガリレイの発見した振り子の等時性を利用して、より正確に動く振り子時計をつくった。この時計も、ドラムに巻き付けた綱に取り付けたおもりによって動くものであった。これよりすこし前ドイツの機械技師ヘンラインPeter Henlein(1480―1542)は、ぜんまいを動力とすることを考えた。これによって時計はしだいに小形となり、携帯用のものがつくられるようになった。ねじを巻けば、それがほどけ終わるまで時計は自動的に動き、時刻を示した。
1927年アメリカのマリソンWarren A. Marison(1896―1980)は、水晶のピエゾ電気効果を利用した水晶時計をつくった。20世紀後半には水晶時計が普及し、小さな水銀電池で約1年間自動的に、そして正確に動き続ける時計となった。
[中山秀太郎]
イギリスのワットが往復動大気圧蒸気機関を改良し復水器(コンデンサー)付き蒸気機関の特許をとったのは1769年であり、この機関から回転運動を得るために1781年、遊星歯車装置を考案した。そして蒸気機関は工場用動力、蒸気機関車としてその利用範囲は広まり、以後150年間、動力機械の王座を占めることとなった。回転運動を一定にするために1788年にワットの発明した遠心調速機は、ワットの蒸気機関がかくも長期間広く利用された一つの大きな要素であった。調速機は自動機械にはなくてはならない制御装置としての役割を果たすものであった。回転軸に取り付けた球は、回転が速くなると遠心力によって外側に振れる。回転が遅くなると、内側に向かい軸に近づく。この球の運動をレバーによって伝え、蒸気機関に送り込む蒸気調節弁を動かすようにしたのである。すなわち、回転がある程度速くなり球が外側に振れると、弁は閉じて蒸気の量を少なくする。そうすると回転は遅くなって球は内側に動く、弁は開いて蒸気の量は増え回転が速くなるというぐあいで、蒸気機関はある一定の速度を維持することになる。かくしてフィードバックによる自動制御が始まったのである。
1830年イギリスのユアAndrew Ure(1778―1857)は、膨張係数の異なる二つの金属の薄板を貼(は)り合わせたバイメタルを考案した。温度が変化すると、膨張率の大きい金属は小さい金属よりもよけいに伸びるので、貼り合わせた薄板は湾曲する。この薄板の動きを利用して、電気回路のスイッチを開閉することにより温度を自動調節することができる。電気こたつの温度の制御などにも利用されている。
[中山秀太郎]
18世紀後半アメリカの各所で動いていた製粉所は、水車を動力とし石臼(いしうす)を回していたが、仕事は重労働で、粉を運搬する人が土足で粉を踏むなど不潔でもあった。O・エバンズは、この製粉工場を清潔にし、衛生的な小麦粉をつくらなければならないと考え、工場内に人が入らなくともよい製粉工場を建設した。バケットコンベヤーで最上部に運び込まれた小麦は、重力で下方のホッパーに入り、石臼で粉にされ、下部に落ちた小麦粉は袋に詰められて出ていくという工場にした。労働を軽減し、清潔なこの自動製粉工場は、19世紀に入るとアメリカの各所に設立された。
20世紀の初めアメリカのフォードは自動車の大量生産を開始した。ベルトコンベヤーを使用し、自動車の組立てをきわめて能率よく行うものであった。この方法はやがて機械工場のあらゆる部門に普及した。20世紀のなかばを過ぎると、電子工業の発達に伴って電子式制御が普及し、機械の自動制御は飛躍的発展をした。さらに人間の手と同じような感覚をもつロボットも開発され、生産現場の自動化は急速に進んだ。触覚だけでなく視覚をもつロボットもつくられ、さらに判断・記憶の能力をもつ電子式機械と組み合わせられ、人手の要らない完全自動工場の実現も夢ではなくなった。かくして人類長年の夢であった自動的に生産を行う無人工場が20世紀の後半に稼動することとなった。人間は単調な繰り返し作業、高熱下での仕事、近寄ると危険な仕事などから解放され、人間でなければできない高度な知的仕事に専念できる社会の実現が期待される。
[中山秀太郎]
オートメーションということばはきわめて広い意味に使用され、多くの段階がある。たとえば自動洗濯機は程度の低い段階のものの代表といえよう。洗濯物を入れ、制御機構をセットし、スイッチを入れれば、あとは、洗濯機内に組み込まれている自動機構によって洗われ、水洗いが行われ、脱水が終わればスイッチが自動的に切れて、洗濯が完了する。それにひきかえ、もっとも高度なオートメーションはコンピュータにより制御される機械を使用したもので、機械の進行を制御するだけでなく、適当な指示を与えたり判断をし、所定の動作を完了するようにできている。地球を飛び立った人工衛星は、自動制御機構により完全に制御され、何万キロメートルも離れた月に到達し、そこに着陸し、探査後ふたたび地球に戻ることができるのである。技術者は人間の労働を機械に置き換えようと努力している。人間の誤り、疲労、重労働などを除き、より速く、安全に、そして経済的に生産をし、豊かな社会を築き上げようとしている。
[中山秀太郎]
記号化された制御機構で機械に命令を与え、複雑な仕事を自動的に行うようにくふうしたフランスのブーシャンBasile Bouchonによる織物機械は、今日のオートメーションの基本となっているパンチカードの最初であった。織り出すべき文様どおりに孔(あな)のあけられた一巻きの紙により縦糸の動きが制御され、織物に文様がつくられていくようになっていた。この機械を改良し、一度に1200本の針を孔あきカードで制御する文様織機を製作したのは、1804年フランスのジャカールであった。孔あきカードを使用したことは、機械に有効な情報伝達手段を与えたというわけである。伝達のことばは、孔と、孔のない部分との2語に限られていた。2を基本とした二進法は今日機械による伝達に広く使用されている。電球の「点」と「滅」との二つで多くの情報を記号化できるのである。たとえば、5個の電球の点・滅の組合せにより32通りの情報伝達ができる。これによってアルファベット26文字を表せるばかりでなく、句読点など、なお6個の情報が伝えられる。現在では機械のことばとして、電球ではなく電気信号が使われている。
[中山秀太郎]
アメリカのフォード自動車会社が、ベルトコンベヤーを使用して自動車の大量生産を開始したのは1910年代のことであった。この大量生産を開始するにあたってフォードは、部品の規格化、単純化を行い、コンベヤー上での作業を容易にするなど技術的改良も行った。
第二次世界大戦後、エンジンブロック加工用につくられたトランスファーマシンは、加工機械に革命をもたらした。この機械は、ベルトコンベヤーの周りに、人間にかわって自動工作機械を配置したものであった。動く作業台の上にのった半製品は、加工用工作機械の位置で停止し、自動的に加工が行われ、一つの作業が終わると次の加工機械の位置まで運ばれ、ここでさらに別の加工が自動的に行われる仕組みとなっていた。次々と加工が行われ最後に完成品となって出ていくこのトランスファーマシンは、人手を使わずすべての作業が自動的に行われるものであった。
自動車のエンジンブロック加工に使われたトランスファーマシンは、やがて他の機械加工にも使用されだし、機械加工の自動化が進んだ。
一方、多品種少量生産用の工作機械もつくられるようになった。この機械はパンチテープなどにより制御される数値制御工作機械(NC工作機械)とよばれ、機械加工の自動化はよりいっそう進んだ。20世紀後半に入ると、工業用ロボットの進歩により、機械加工の自動化はさらに高度となり、電子機械による制御で完全に自動化し、無人工場も出現することとなった。
[中山秀太郎]
石油工業、化学繊維工業、化学肥料工業、セメント工業などの化学工業は、液体、粉体などを扱うため、搬送にはパイプが使えるので、機械工業におけるような複雑な搬送機械は要らない。また生産工程は化学的・物理的処理が主となり、組成、流量、温度、圧力、湿度、濃度、液位などをそれぞれ目的に応じた条件に保つことにより生産が行える。このような工程を主体とする工業をプロセス工業とよんでいる。プロセス工業では、工場内の原料から製品までの工程がパイプなどで流しやすくされているので、自動化するのは比較的容易である。また温度、圧力、流量などの自動制御も簡単にできる利点がある。
石油精製の工程が連続的に行われ、温度、圧力の測定、調節が自動化されるなど、プロセス・オートメーションは第二次世界大戦後急速に進んだ。石油精製工場では、原油からガソリン、灯油、軽油、重油などを分留する石油精製装置をはじめとし、その他の装置も自動化され、計測器、調節器を1か所に集めグラフィックパネルを備え付けた管理室によって自動制御されている。広い敷地にある各種の装置には人影をほとんどみない。
水力発電所、火力発電所でも、遠隔操作による無人発電所がある。タービンや発電機の制御を1か所で集中的に行い、発電量を自動的に制御しているのである。また製鉄工場などでも、鋼塊から薄板をつくったりするのにストリップ・ミルが使われ、多くのローラーの間を通り、板厚は自動的に測定され、所定の寸法の薄板が自動的に生産されるようになっている。
[中山秀太郎]
現代のメカニカル・オートメーションとプロセス・オートメーションはいずれも、1980年代以降長足の進歩がみられる。その一つに、情報や信号を取り入れる入力側のセンサー(検出器)の高性能化と小型化があげられる。これにはセンサー用材料の機能向上と新たな開発が大きく貢献し、小さいながらも多種多様の情報が取り込める高機能センサーが登場し製品にも組み込まれている。さらに、センサーから情報や信号を取り込み、それらを定められた手順に従って演算・解析・判定し、他に信号を出力する電子回路の機能特性向上も顕著である。この回路の小型化と集約密度は年を追って高まり、微小ながらも機能に優れた集積回路(ICやLSI)が登場、製品性能向上とコンパクト化を実現し、利便性の向上を果たした。
こうした高精度な集約度の高いICやLSIの製造には、日本の優れた生産技術と高レベルの品質管理がその背景に存在する。QC(品質管理)サークル活動に代表されるように、日本人の勤勉さと継続努力の成果が、生産性向上に結実したよい事例といえよう。
加えて、情報の出力表示もネオン管からより電流値の少ないLED(発光ダイオードlight emitting diode)、さらに液晶などに変わり、画面分割数の増大による高解像度が実現した。一方、入力信号を受けて他に何らかの仕事をする駆動機構(アクチュエータとメカニズム)も、従来の機械要素の組合せによる大きくて重い構造から、全体的な小型軽量化が達成されたが、これは小型で強力な電動機の出現に負うところが大きい。こうした事例が家庭電化製品や自動車にもよくみられることは、いうまでもない。
これら一連の技術分野は「メカトロニクス」とよばれるが、これまで述べたセンサー、電子回路、機構という三つのハードウェアと、情報や信号などのソフトウェアを最適に組み合わせた一つの姿といえる。現在の機械ではメカトロニクスがすでに常識となり、私たちの日常生活と密接にかかわっている。鉄道の駅に多数設置される多機能形乗車券販売機や自動改札機、さらに磁気記録乗車券などをみてもこうした現実は実に身近であり、技術のシステム化が他の技術の開発を刺激し、その実現に大きく貢献している姿である。製品のもつ機能向上は日々続けられているが、新製品開発には創造性に裏付けされた設計と、豊かな生産技術の柔軟な組合せが必要といわれている。
近年におけるヒット商品の一つに、携帯電話がある。小さいながらも高機能な通信機器で、場所を選ばず相手と交信できることは画期的といえよう。しかしこの製品にも思わぬ落とし穴があり、使用者側のモラル低下もさることながら、ペースメーカー装置者への配慮不足も社会的にクローズアップされている。この通信機器の利便性はいまさらいうまでもないが、技術の新たな開発と実現においては技術者の倫理と責任が問われるトリガー(引き金)の役割を果たしたことも、否定できない。
これら二つのオートメーションは、私たちの生活を豊かにし充実させはしたが、その反面で技術の倫理観を要求したともいえる。この問題は技術の進歩がつねに新たな課題を創出するという好事例といえよう。
[堤 一郎]
1880年アメリカの人口は5026万2000人であった。このときの国勢調査でこの人口を集計するのに7年の年月を要した。その後人口は増加したので、1890年の国勢調査では集計が10年でできるかどうか危ぶまれていた。この難問を解決したのはホレリスであった。国勢調査の情報を記号化し、パンチカードによる記録装置をつくって、機械的に処理したのであった。その結果、人口は25%増加していたにもかかわらず、わずか2年間で結果を出すことができた。このときの記録装置はその後改良され、今日の電子式計算機械へと発展したのである。
工場や会社では、伝票の整理、従業員の給料計算、あるいは原価計算、販売分析、生産高の集計、資材の購入、在庫管理などさまざまな事務的仕事がある。これらは従来すべて手作業であったが、電子計算機の発達により、その処理を機械的に行うことができるようになった。人口調査などに使われた統計機械が会社の事務用統計機械として役だち、事務専用の統計機械もつくられ、分類、計算、集計が自動的に行えるようになった。銀行業務でもカードの使用によって、入金、引出しが即時に、自動的にでき、最近では、提携関係にある他の銀行の各支店の端末機も使えるようになった。
コンピュータ、ファクシミリ、ワードプロセッサー、データ通信システムなどの情報処理機器を活用し、事務処理の自動化を行うことを、オフィスオートメーション(OA)とよんでいる。それに対して、家庭内の家事、教育、安全、エネルギーなどをコントロールするシステムをホームオートメーション(HA)という。
[中山秀太郎]
生産面からみれば、少品種多量生産がやりやすいことはいうまでもなく、経済面からみても低価格が実現できる。この典型はヘンリー・フォードが自動車の大量生産を始めたとき、車種をT形一種類にし、色は黒だけにしたという話からも納得できる。多くの人々はそれで満足し自動車を持つことができたが、ひととおりそれが充足されると今度は他人とは異なる車種や色が欲しくなるのはごく自然な成り行きといえる。こうしたニーズ(要求)を満たすべく他社が商品戦略で車種や色を少しずつ増やして顧客のニーズにこたえるのは当然である。この販売合戦もあるところまで充足すると、今度は自分だけが持っている特別な自動車が欲しくなるという、購買側と供給側相互さらに企業間での商品追求が繰り返されるといった歴史をたどる。こうした現象は何も自動車に限らず、他の製品開発においても相似性がみられることである。
近年に至るオートメーションの動向と現状は先に述べたが、とりわけ興味深いのは製品と生産設備の質的向上ではなかろうか。基本的にはメカトロニクスが中心だが、この実現を図るため実際の生産管理面ではコンピュータの援用が著しい。製造プロセス管理、製品検査、在庫管理など、至る所にたくさんのコンピュータが使われており、製品設計の段階からその結果を図面化する段階まで、データの蓄積と利用面でシステム化され広範囲に機能している。生産の実際の担い手である工作機械もその多くがコンピュータコントロール化され、設計室から転送された加工情報を入力し、短時間で製品が完成するまでになった。
こうした生産設備から生み出される製品にも、従来にはないさまざまな付加価値が数多くみられることも近年の特徴である。時計やカメラといった精密機器をみても、実にたくさんの機能が小さな製品のなかに組み込まれている。これらはとりもなおさず高精度のセンサーと高度に集積化された電子回路によるが、こうした機能設計を実現させた日本人の独創性に基づく高い生産技術と品質管理の存在を、私たちは改めて認識する必要があろう。
社会のニーズはつねによりよいもの、便利なもの、機能に富んだものなどを要求し、技術者も企業もそれを満たすべく努力を重ねてきた。この蓄積はさらなる発展のための技術面でのポテンシャルエネルギー(潜在的エネルギー)になる。製品を製造し続けることは消費が前提であり、消費の繰り返しに依存する経済発展は製品生産の基となる資源やエネルギーの存在なくしては不可能である。現在のオートメーションの根幹は、資源・エネルギー問題と地球環境問題に深くかかわり、これらといかにして共存しながら生産を続けるかにかかっているといえよう。
[堤 一郎]
制御の形態は、フィードバック制御とフィードフォワード制御に大別できよう。
前者は得られた結果(出力)をみて入力を調節するもの、後者は結果(出力)を予測して入力を調節するものである。病理面での治療と予防のように、私たちの日常生活ではつねにこれらの制御形態が繰り返し登場するが、多くの人々はこうしたことをほとんど自覚していないように思われる。
一般に人間の行動は情報や経験をデータとして蓄積し、このデータを整理分類し次の活動や事態に適切に対応しようとする。それゆえ失敗はまたとない大切なデータといえる。従来は技術面での失敗は表面化させず、成功事例だけを成果として公表しまた評価がなされてきた。むしろ今後は失敗を技術面での共有財産となし、これらをデータとして有効活用するシステムづくりが社会的ニーズになる可能性をもつ。現在の経済情勢は競争企業相互間の統合を生み、その結果として、これまでの経験に蓄積された得がたい技術データの共有も現実化しつつある。今後の生産を確実に維持するためには、前述の二つの制御形態にみられる考え方を目的にあわせて最適に組み合わせ実行する体制づくりが求められているといえよう。そのためには人間の思考と行動の過程を制御という面からよく観察し、そこから得られた成果を目的に沿わせて分類し検索・使用できるフレキシブル(柔軟)な情報のシステム構築が大切である。ひとたび組み上げた生産設備は簡単には変えられないが、柔軟性に富んだ考え方を巧みに組み合わせ生産の過程に適用し最適化を図ることは、オートメーション分野では従来にも増して大切な課題になると予想される。
FMS(flexible manufacturing system)はこのよい事例の一つである。FMSとは、設計変更に柔軟に対応できるシステムのことで、フレキシブル生産ラインともいう。たとえば多品種少量生産での生産性を高めるため、NC工作機械、工具自動交換装置(ATC=オートマチック・ツール・チェンジャー)、工作物自動着脱装置、無人搬送装置などをコンピュータで統括制御して作業内容に柔軟性をもたせるのである。製品寿命が短いことを考慮して、多少の生産の変更に適応できるシステムが組まれている。
[堤 一郎]
これまで述べたオートメーション技術の展開は、その光の部分である。この技術が進めば進むほど、従来多数の熟練技能者に頼っていた労働の場が狭められることもまた事実である。新技術導入が労働環境の急速な変更を引き起こし、社会問題として顕在化してきたことも否定できない。高度なオートメーション化の実現は、ものづくり現場を自らが担ってきた熟練技能者に、長年蓄積された熟練技能の低下と損失を引き起こすのである。これには日本の経済構造も大きく関与し、生産の場そのものが東南アジアや中国に海外流出する現状は避けて通れない。高度な熟練技能者は年を追うごとに高齢化し、彼らがもつ技能という財産は復活の場をみいだせないでいる。
低価格で大量に製品をつくりだし、生産の合理化とシステム化、製品の多機能化と迅速対応、さらにコンパクト化などを実現し社会に潤いを与えたこれまでのオートメーション技術は、21世紀においてどのような環境でその存在を継続していくのか、現在は大きな岐路にたっているといえよう。
[堤 一郎]
労働の生産性は、労働の協同・編成の仕方によって高まるが、より進化した技術(労働手段の体系)の導入によっても向上する。オートメーションの導入の目的はここにある。この導入は労働者の労働の質はもちろん、協同・編成の仕方をも一変させる。
産業革命に始まる機械化によって、原料の加工は機械が主となり、労働者は作業目的・対象に応じた個々の機械の設定・操作などの作業に従事することになった。労働者は機械に対して労働を行うようになり、その労働内容は変わった。そして、機械的機構による自動化の進展は、さらに労働内容を変化させた。もっぱら労働者は機械による加工の監視・確認・調整などの作業を行うようになり、作業対象への直接的な労働から遠ざかった。
このような労働の変容は、コンピュータを組み込んだ自動工作機械やコンピュータによって統御された搬送システムなどの導入によっていっそう進んだ。これらの自動化は、いまのところ人間の手指の繊細な動きを超えるには至っていないが、熟練した労働者の技能や経験をコンピュータ・プログラムに書き込むことで、人間のかわりに機械が自動的に逐次、判断し、作業を実行するようになりつつある。そのため労働者の役割は、自動工作機械やロボット群の監視、集中制御機器の操作や取り付けミスの手直し、メンテナンスなどの補助作業となった。
オートメーションの進展は、これまでの流れ作業方式による単調な反復労働を解消し、工場の無人化を志向するものである。また省力化、加工の均一化・高速化、品質の向上、設備稼働率の向上を実現し、労働の生産性を飛躍的に向上させた。さらに、汚染・危険などの悪環境下での作業から労働者を解放させつつある。
なお、複雑な条件を考えあわせる作業や大量の情報の分析・推論を支援するシステムの登場は、設計作業のコンピュータ化(CAD(キャド))をはじめ、生産、流通、販売、経営戦略などを包含したコンピュータ統合生産(CIM)を現実のものとし、受注から製造、出荷までのオンライン化を進め、注文や資材発注を端末機を操作することで事足りるようにした。そして、インターネット技術の導入は、開発、生産、販売、保守・修理等の情報のデジタル化を進め、ネットワーク上での相互交渉による効率的対応を実現し、経営資源の節約や機敏な企業経営を実現しつつある。
しかしながら、こうした生産の自動化・デジタル化は、かならずしも労働者にとって労働内容・条件の改善、生活の向上につながるものではない。稼働率・稼動速度のアップによる労働の高密度化のみならず、自動制御への敏捷(びんしょう)な対応や監視業務による長時間の精神的緊張、自動工作機械やロボットに囲まれた作業による疎外感、脱熟練化に伴う作業の無内容化による労働意欲減退など、精神的ストレスを原因とする健康障害を引き起こすものでもある。
また、自動化された機器の技術の高度化、ブラックボックス化は、これに携わる労働者の知的能力、技術操作能力のいっそうの高度化を要求する。その結果、これらの能力の習得を不得手とする中高年労働者の配置転換、失業のおそれを生み出している。その一方で、支援システムの開発・管理・保守、プログラミングやソフトウェアづくり、データ入力作業等の知的労働に従事する新しい技術系労働者を生み出し、派遣労働者や下請、臨時雇用を増大させている。また、オートメーションの発展はこれを構成するハイテク技術の研究開発を担う研究労働者を増大させつつある。
こうした労働構成の変化は、これまでの年功的序列賃金、終身雇用などの日本的労使関係の変更を迫るものであるが、基本的には物質的生産に携わる労働者を減少させ、精神的生産に携わる労働者を増加させるものである。
[兵藤友博]
オートメーションすなわち「自動化」は、教育の未来像を示唆する一つの方向として、教育関係者の注目を集めてきた。もともと教育活動、なかんずく教室における教科の学習指導は、伝統的に人間教師が担当するものという考え方が現在に至るまで、支配的である。教育の自動化はこの「授業は先生がするもの」という、これまでの既成概念に大きな修正を求める試みといえよう。
教育の自動化の実現は次の三つの要因に依存している。その第一は、20世紀の後半になって進歩の著しい諸科学(行動主義心理学、認知心理学、大脳生理学、電子工学、情報処理教育等々)の研究成果が積極的に教育自動化の試みに役だてられるようになったことである。教育の自動化のプロセスの科学的解明と併行して、もう一つの重要な展開は、優れた性能をもつ電子計算機の出現である。教育の自動化を実現するためのツール(道具)として電算機は特別の意味をもつ。人間教師の介在にとらわれない学習指導システムを立ち上げるにはコンピュータによる学習指導プロセスのシステマティックな制御が不可欠である。CAI(学習指導の機器システムComputer-Assisted Instruction)は学習指導の自動化の試みの本命ともいうべきものである。周知のようにコンピュータによる学習指導は多様な学習プログラム(学習ソフト)の開発を前提とする。CAIの普及につれて、学校教育、成人教育用の優れた学習ソフトが現在、続々と開発されつつある。
教育の自動化を促進する第三の要因は、地球規模で現在、進行中の情報技術(IT)革命とのつながりである。金融や産業のIT化は、日本の経済・産業構造を大きく変えようとしているが、教育のIT化も経済や産業の構造変革に匹敵する変革を教育の分野にもたらすものと予想される。具体的にはインターネット回線の学校への導入や、光ファイバー網の全国整備、BS(放送衛星)デジタル放送の開始、地上波のデジタル化、さらにはCATV(ケーブルテレビ)網を取り込んでの「情報ハイウェイ構想」の地域社会における先導的試みである。急速に発展する情報技術は、既存の業種別の枠を越えた商機の全国的拡大や地域住民の利便性の向上に大きく貢献しようとしている。
ITを軸にして形成される高度情報通信社会は、一方において通信分野の大幅な規制緩和を必然的に促すこととなる。電気通信、地上波およびBSデジタル放送、インターネットなどで構成される情報技術の融合が、日本の通信分野に張り巡らされている数々の規制を時代遅れのものとしつつある。
教育のオートメ化は、現在、進行しているIT革命の一翼を担うもので、日本における教育の構造的変革も今後のIT革命の進捗(しんちょく)と連動して実現していくものと考えられる。
[西本洋一]
『上林貞治郎・笹川儀三郎著『資本主義オートメーションと社会主義オートメーション』(1958・中央経済社)』▽『石田和夫著『現代企業と労働の理論』(1967・ミネルヴァ書房)』▽『山田圭一著『現代技術論』(1969・朝倉書店)』▽『H・ブレイヴァマン著、富沢賢治訳『労働と独占資本』(1978・岩波書店)』▽『フィリップ・ヒルズ著、磯辺武雄訳『コミュニケーションと教育』(1982・多賀出版)』▽『鎌田慧著『ロボット時代の現場』(1983・三一書房)』▽『剣持一巳著『マイコン革命と労働の未来』(1983・日本評論社)』▽『田中博秀著『解体する熟練』(1984・日本経済新聞社)』▽『涌田宏昭・人見勝人著『FA&OA』(1984・日刊工業新聞社)』▽『林喜男・野呂影勇著『無人化システム』(1984・日刊工業新聞社)』▽『中山秀太郎著『機械発達史』(1987・大河出版)』▽『西之園晴夫・井上和郎著『授業を活かすコンピューター』(1988・ぎょうせい)』▽『木下進著『FA・ロボット技術革新と人材育成』(1988・海文堂)』▽『菅井勝雄著『CAIへの招待』(1989・同文書院)』▽『L・T・C・ロルト著、磯田浩訳『工作機械の歴史――職人の技からオートメーションへ』(1989・平凡社)』▽『本林勝海著『多品種少量・ジャストインタイムを実現する生産管理の50のチェックノート』(1989・PHP研究所)』▽『人見勝人著『生産システム論――現代生産の技術とマネジメント』(1990・同文舘出版)』▽『青水司著『情報化と技術者』(1990・青木書店)』▽『大野木裕明著『教育の方法と技術を探る――教育工学・教育心理学からの接近』(1991・ナカニシヤ出版)』▽『清水康敬他著『情報通信時代の教育』(1992・電子情報通信学会)』▽『井上知義著『教育工学――認知心理学からのアプローチ』(1993・サイテック)』▽『ポール・ケネディ著、鈴木主税訳『21世紀の難問に備えて』(1993・草思社)』▽『山本潔著『日本における職場の技術・労働史――1854~1990年』(1994・東京大学出版会)』▽『大沼正則著『岩波市民大学 人間の歴史を考える(12)技術と労働』(1995・岩波書店)』▽『高木彰著『現代オートメーションと経済学――現代資本主義論研究序説』(1995・青木書店)』▽『松田光明著『ワークフロー・オートメーション入門――業務精通者が主役』(1996・同友館)』▽『森田統一郎著『オートメーションと労働組織』(1997・税務経理協会)』▽『幸光善著『現代企業労働の研究――技術発展と労働・管理の視点を中心に』(1997・法律文化社)』▽『千田忠男編著『労働科学論入門』(1997・北大路書店)』▽『宮田義典著『ME革新と日本の労働システム』(1998・批評社)』▽『松石勝彦著『コンピュータ制御生産と巨大独占企業』(1998・青木書店)』▽『山口栄一編集代表、高橋正視ほか編集委員『21世紀コンピュータ教育事典』(1998・旬報社)』▽『楠田喜宏著『自動化システム心得ノート』(1998・日刊工業新聞社)』▽『日本労働研究機構編・刊『リーディングス 日本の労働(11)技術革新』(1999)』▽『楠田喜宏・八木喬著『図解 産業用ロボット導入実践ガイド』(1999・日刊工業新聞社)』▽『岡本俊雄著『インターネット時代の教育情報工学』(2000・森出版)』▽『デービッド・F・ノーブル著、渡辺雅男他訳『人間不在の進歩――新しい技術、失業、抵抗のメッセージ』(2001・こぶし書房)』▽『中岡哲郎・鈴木淳・堤一郎・宮地正人編『産業技術史』(2001・山川出版社)』▽『中山秀太郎著『オートメーション』(岩波新書)』▽『森谷正規著『IT革命の虚妄』(文春新書)』
生産工程の一部または全部が,人間の手を離れて機械だけで行われることであり,autom(atic)+ationという造語法で(あるいは,autom(atic)(oper)ationという短縮法によって),1940年代のアメリカで成立したことばだとされている。アレクサンドリアのヘロン(1世紀)の作った自動人形はオートマトンと呼ばれたが,このオートマトンということばは,機械を用いた生産が人間の社会に及ぼす影響を重大な問題として考察した19世紀の思想家たちによって,機械による生産が行きつく果てをイメージさせることばとして愛好された。つまり彼らは生産機械がオートマトン(自動人形)のように,すべての加工動作を人間の手を借りないで自分でやってしまう未来を予感したのである。
物を作るという行為は一連の手順(工程)にしたがった,段階的な加工から成り立っている。たとえば綿糸を作るならば,綿の繊維をほぐし(打綿),繊維の方向をそろえ(梳綿),細長い篠に仕上げ(練篠),粗糸を作り(粗紡),それをひきのばしつつよりをかけて糸に仕上げる(精紡)といった順序で作られる。そのそれぞれの工程ごとに,必要な加工を行う専用作業機(打綿機,梳綿機,練篠機,粗紡機,精紡機)が成立し,それらが工程順に配置され,一段階の加工を終わった綿は次の作業機へ連続的に送られていく,といった形で産業革命期の機械制紡績工場は成立していた。これはその後の工場生産の発展の方向を十分に予見させうる姿であった。19世紀末から20世紀初めにかけて各産業分野で成立してゆく大量生産工場は,製鋼や化学などいわゆる装置産業でも,自動車や家庭電器など組立機械産業でも,ほぼこの産業革命期の綿紡績工場と同じように組織されていた。このような工場がオートマトンのようになってゆく方向は,(1)それぞれの専用作業機(または装置)がそれを操作する労働者の手からはなれ,自立した動きを獲得すること(自動制御),(2)作業機から作業機への加工対象の移動を機械自身が行ってしまうこと(工程の連続化),という二つの動きの組合せをとおして実現されることになる。1930年代後半ころから登場するようになった,自動車のエンジン・ブロック加工のためのトランスファーマシンや,計装制御をフルに用いた化学工場や発電所などは,まさしくこのような形で工程自体が自律的な動きを獲得し,人間は制御者の位置から監視者の位置へ退く,画期的な工場という印象を与えるものであった。この印象を強調するためオートメーションという新語が工夫され,こうした型の工場が急速に産業の中に広まった第2次大戦直後の思潮の中で一挙に市民権をえたのである。だから,このことばは工学的に厳密に定義された用語ではなく,部分的な一系列の工程が人間の手による制御をはなれることから,空想的な完全無人工場までを含む,幅広い適用範囲をもった思想用語と考えるべきだろう。それは機械と文明の関連を考察してきた19世紀以来の思想潮流の中でもっとも重要な意味を,それゆえ文明論の領域でもっとも愛好される概念なのである。
前述のように,自動制御と工程の連続化が技術的には2本の軸である。前者のためには工程のおかれている状態を機械的に感知・計測し,得られた情報にしたがって必要な制御を機械に指示してやる回路を形成する技術,いわゆるサイバネティックスと総称される分野の技術の発展が必要であった。初期には簡単な計器によるフィードバック制御やシーケンス制御が頼られていたが,コンピューターの登場,計測・制御関連機器の発展とともに,以前とは比較にならぬ複雑で柔軟なシステムの構成が可能になった。とくにコンピューターのマイクロ化はこの分野に画期をもたらすことが予想される。後者のためにはコンベヤやポンプ類の搬送機器のみならず,物の取付け,とりはずしなどを自動的に行うマニピュレーターなどの技術の発展が必要であり,その延長上にロボットなどもある。
加工される対象が流体や粉体であることの多い化学工業などの装置産業と,自動車に代表される組立機械産業では,工程の連続化に必要な手段も,制御の方式もかなり対照的に異なってくるので,前者をプロセス・オートメーション,後者をメカニカル・オートメーションと呼んで区別することが初期には一般的であった。しかし,この区別は石油化学プラントとエンジン加工ラインがオートメーションの二大シンボルであった時代の産物であり,コンピューターと電子回路を軸にした多様なシステムが,サービスも含めたさまざまな分野に浸透している現在では,あまり重要なものではなくなりつつある。
工場の中での生産労働とは一見対照的な事務の仕事も,情報という対象を加工しつつ送ってゆく仕事だと考えれば,物の加工と同じ原理で,コンピューターはじめ各種事務機械を作業機とする自動システムに構成することが可能なことがわかる。また各事業所の設備を電話線でつないでネットワークを形成することも容易である。こうした形の事務機械化や情報処理ネットワークを工場との対比でオフィス・オートメーションとかビジネス・オートメーションとか呼ぶことが流行しているが,前項と同じく時代の流れに沿った用語法であり,厳密なものではない。
オートメーションは,たとえ一部分の工程に適用される場合であっても,生産過程における人間の役割の排除をその本質とするものであるから,当然人間の労働のありかたと,労働を基礎とした人間の社会生活のありかたに大きな影響を与えるものであり,初期からその問題をめぐって,はげしい議論がたたかわされた。失業をもたらし社会不安を増大させるだろうというもの,人間を機械従属的な労働から解放し労働を管理に格上げするだろうというもの,いやそうではなく生産と社会生活における人間労働の役割を低め人間疎外の社会を作りだすだろうというもの,飛躍的な生産力増大の結果として生産力と生産関係の矛盾を激化させるだろうというもの等々である。これらの予測の当否を吟味する余裕はないが,あまりに短絡的な,たとえば,オートメーション→無人化→失業問題,といった形の予測ははずれたといってよい。人間は社会的存在なのだから,オートメーションが人間に与えた影響を知るためには,オートメーションがもたらした社会を見ることが必要であることを強調しなければならない。
初期のオートメーションは,生産工程を人間の手による制御のもっていた限界から解放することによって,きわめて高速な機械の運転や巨大な装置の実現を促進する効果をもった。結果として一工場の生産する量は巨大となり,そこへ投入される原料の流れも,そこから吐きだされる製品の量も巨大になった。他方,コンピューターを駆使した管理システム(ビジネス・オートメーション)の進展によって,巨大かつきわめて複雑な生産組織や企業組織を管理することが可能になった。ビデオテープレコーダーのような高度な部品構成をもった消費財の出現,あるいは複雑なシステムとして販売される商品の出現は,生産の全領域へのオートメーションの浸透が可能にしたものであるし,国境をこえて活動する多国籍企業,日本の経済を特徴づける系列化された巨大企業集団,また世界を二分する軍事ネットワークなどはまさしくオートメーション時代のものである。つまりオートメーションは世界的な規模でのシステム支配の社会を生みだした。人間は直接生産過程への組みこみからは少し解放されたが,社会的には生活全体をシステムの網の目により強く組みこまれ,管理を強く意識しながら生きるようになったのがここまでに生じた変化である。
コンピューターの進歩とくにそのマイクロ・チップ化は,制御の技術にひとつの画期をもたらすと考えられている。現に,初期のオートメーションでは手の及ばない領域であった組立流れ作業や,機械の部品加工,多品種少量生産などの領域でも,数値制御機械やマニピュレーターを駆使し,全体をコンピューターで制御する無人工場があらわれはじめており,オートメーションの進行する範囲は限界を知らない。この段階では初期に論じられたような失業などの社会問題も出てくるかもしれないが,事態の進行はここまで論じてきた大枠をはずれることはないであろう。
→自動制御
執筆者:中岡 哲郎
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…1960年代以降の製鉄所,化学工場,石油精製所などに普及した現代の工業労働の代表的な一類型。オートメーション装置の自動制御にもとづく機能を,その安定した稼働にむけて補完する労働である。制御室での計器の監視,〈正常値〉の範囲内への計器の調整,装置各パートのパトロール点検,操業状態の記録,そして,まれに生じかねない緊急異常事態への対処などが,職務の具体的な内容をなす。…
…19世紀においては,原動機と作業機を結合したものが機械のイメージであったが,20世紀に入るとラインにある機械のシステムと全システムの制御が重要な問題となった。 20世紀には,トラクター,コンバインなどの農業機械のほかローダーなどの鉱山機械,パワーショベル,ブルドーザーなどの建設機械が普及し,映画機械やガソリンエンジンの開発による自動車や飛行機の登場普及も著しく人間生活を大きく変えたが,機械発達の第3段階と言うべきものはオートメーションと呼ばれる自動化された機械体系である。サーボ機構を用いたならい盤などもオートメーションと呼ばれているが,むしろそのような機械をシステム化した複数機械の体系が重要で,工作機械の自動化体系であるトランスファーマシンがその代表である。…
…また生産システムを有効に利用して顧客からのオーダーを経済的に処理していくための計画schedulingの問題があり,オーダーを進(しんちよく)していくための統制controlの問題がある。
[オートメーション]
1940年代後半に端を発したオートメーションへの動きは,装置工業においてはプロセスオートメーションprocess automationを,機械工業においてはメカニカルオートメーションmechanical automationを実現してきた。後者においては単一工程ないし数工程の機械化・自動化(数値制御)やマシニングセンターmachining centerから全工程の自動化・無人化へと進展している。…
※「オートメーション」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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