改訂新版 世界大百科事典 「マイコドリ」の意味・わかりやすい解説
マイコドリ (舞子鳥)
manakin
スズメ目マイコドリ科Pipridaeの鳥の総称。この科は約18属52種からなる。新世界のメキシコ以南の亜熱帯から熱帯の森林に生息するが,大部分の種は南アメリカに分布している。この仲間は美しい羽毛と繁殖期に雄が行う独得のディスプレー(ダンス)でよく知られている。マイコドリという名もこのダンスからつけられた。全長10~18cm。どの種も小さい鳥で,雄の尾の中央羽2枚がとくに長いオナガセアオマイコドリChiroxiphia linearis(尾を含めた全長25cm)など数種を除くと,シジュウカラより小さい。ツグミマイコドリ属Schiffornis(3種)以外は雌雄異色で,雄は鮮やかな羽色で,赤色,橙色,黄色,緑色,青色,黒色の色わけが際だっている。一方,雌は一般にオリーブ色の部分が多いじみな羽色をしている。くちばしは短く,脚は細い。3本の前趾(ぜんし)は互いに基部で癒着している。ただしツグミマイコドリ属は例外で,この点や羽色などの特徴から,この属をカザリドリ科に分類する意見もある。
すべての種や属についての繁殖期のディスプレーが研究されているわけではないが,ディスプレーの様式は属によってかなり異なっている。シロクロマイコドリManacus manacusでは,毎年,森林内のほぼ同じ場所に集団踊り場が形成される。ここに集まった各雄は,直径1m前後の区域の林床を占め,その区域内から1本か2本の若木を残して林床上の枯葉や枯枝などを取り除き,つき出た若木にとまって美しい羽毛を示し,さまざまな姿勢でディスプレーを行う。各雄の踊り場は隣接していることもあり,数mずつの間隔を置いていることもある。多い場合には,直径約30mほどの集団踊り場内に70羽もの雄が集まってきて,それぞれ踊り場を占めて集団ディスプレーを行う。ディスプレーにひきつけられた雌とこの踊り場で交尾が行われる。
マイコドリ属Pipraの数種では,喬木の横にのびている枝上を踊り場にして,横枝上から飛びたっては,また横枝に舞い戻る。種によっては,特殊な形態の風切羽をもっていて,ディスプレー飛行中にこの風切羽で奇妙な音をたてるものもある。セアオマイコドリ属Chiroxiphiaの雄は,毎年,森林内のほぼ同じ場所に集団踊り場を形成する。その踊り場は低層木の比較的よく茂ったところで,しかも,そこに水平に近いか,傾斜のゆるい長い枝があるところである。数羽の雄がこの枝上で歌い合い,接近してディスプレーを競い合う。これらの属の雄は1繁殖期に数羽の雌と交尾する。各雌は踊り場から離れ,巣づくり,抱卵,育雛(いくすう)は雌だけが行う。非繁殖期には群れをつくらず,多くのものは単独で生活する。食物は主として漿果(しようか)と昆虫で,獲物を見つけると,ヒタキ類のように枝からさっと飛びたってくわえとる。ツグミマイコドリ属以外の属では,巣は樹上につくり,枝のまたの部分にわん形の巣をかけ,通常1腹2個の卵を産む。
執筆者:安部 直哉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報