性差別(読み)せいさべつ

日本大百科全書(ニッポニカ)「性差別」の解説

性差別
せいさべつ

合理的理由なく性別を理由として異なる取扱いをすること。

 日本の憲法および法律は、性差別について直接定義していない。憲法や労働法の関連規定を基に考察すると、前記のように定義することができる。

 憲法第14条は、「法の下の平等」について規定し、「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」とする。同条の法の下の「平等」は、相対的平等を意味し、社会通念からみて合理的である限り、取扱いの違いは平等違反ではないと解されている。

 また、労働基準法第3条は、「労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由」とする差別的取扱いを禁止しているが、行政解釈は、差別的取扱いには有利な取扱いも不利な取扱いも含まれるとしている。このような差別的取扱いの行政解釈は、男女雇用機会均等法も採用している。したがって、冒頭にあげる「異なる取扱い」は、有利な取扱いも不利な取扱いも含む。

 そして、男女雇用機会均等法第8条は、雇用において男女に事実上の格差が生じている現実を踏まえ、女性労働者に対する特別措置(ポジティブ・アクション)を行うことを認めている。ポジティブ・アクションは、女性の管理職比率をあげるクオータ制の導入など、女性に対する有利な取扱いなので、男女雇用機会均等法の禁止する性差別に形式的にはあたるが、特例として認められている。したがって、性差別のうち、女性に対する有利な取扱いは、例外的に性差別と解されない場合がある。

 このような性差別のとらえ方は、1979年の国連総会において採択され、日本が1985年(昭和60)に批准した女性差別撤廃条約の考え方に通じている。同条約第1条は、「女性に対する差別」を、「性に基づく区別、排除又は制限であつて、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のいかなる分野においても、女性(婚姻をしているかいないかを問わない。)が男女の平等を基礎として人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを害し又は無効にする効果又は目的を有するものをいう。」と定義する。

 この定義は、1965年の国連総会において採択され、日本が1995年(平成7)に批准した人種差別撤廃条約の「人種差別」の定義とは異なっている。同条約第1条は、「人種差別」を、「人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限又は優先であって、政治的、経済的、社会的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的又は効果を有するものをいう。」と定義する。

 両者の定義の大きな違いは、人種差別撤廃条約では、「優先」も差別になると解しているのに対し、女性差別撤廃条約はそのように解していないことにある。このような違いは、女性差別撤廃条約第4条から生じる。第4条は、「差別とならない特別措置」として、男女の事実上の平等を促進することを目的とする暫定的な特別措置(ポジティブ・アクション)および母性保護をあげている。

 すなわち、女性差別撤廃条約は、女性を「優先」する措置であるポジティブ・アクションを性差別と解さないとしているので、「女性に対する差別」の定義には、「優先」ということばが使われていないのである。男女不平等の現状を是正するためには、こうした考え方による取組みが必要であると思われる。

[神尾真知子 2022年3月23日]

『国際女性の地位協会編『女子差別撤廃条約注解』(1992・尚学社)』『労働省女性局監修『男女雇用機会均等法 労働基準法(女性関係等) 育児・介護休業法 パートタイム労働法 解釈便覧』(1998・21世紀職業財団)』『国際女性の地位協会編『コンメンタール女性差別撤廃条約』(2010・尚学社)』『芦部信喜著・高橋和之補訂『憲法』第7版(2019・岩波書店)』『厚生労働省労働基準局編『令和3年版 労働基準法』上(2022・労務行政)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「性差別」の解説

性差別
せいさべつ
sexism

(生物学的性差)やジェンダー(社会的性差)を根拠にした偏見や差別。特に女性に向けられることが多い。英語のセクシズム sexismは 1960年代から 1980年代にかけてのフェミニズム運動第2期に生まれた。語源は定かではないが,公民権運動の用語であるレイシズム racism(人種主義)にならってつくられた可能性が高い。セクシズムの概念は当初,女性への抑圧に対する意識向上をはかるために考案されたが,21世紀初めにはそれが拡大され,男性,インターセックストランスジェンダーなど(→LGBT)あらゆる性への抑圧を含むようになった。なお,セクシズムの極端な形態としてミソジニー misogyny(女性憎悪)がある。
性差別は,一方の性がもう一方の性より優位である,あるいは価値が高いとする考えであり,そうした考えは男性,女性それぞれのできることやなすべきことに制限を強いる。しかし,社会における性差別は女性に対して向けられるのが最も一般的である。女性を抑圧する個人,集団,制度における観念的,実体的な慣習を通じて,家父長制度や男性優位を維持するものとして働く。このような抑圧は多くが経済的搾取や社会的支配の形態をとる。この種の見方によれば,女性と男性は正反対であり,大きく異なる相補的な役割をもつ。女性は男性より弱い性であり,論理や合理的推論の領域において男性より能力が低いとされる。したがって,その論理によれば,実業,政治,学問の分野でよきリーダーにはなれない。一方で,めんどうみのよさや情緒を重んじる家庭内での家事労働に生まれつき適しているとみなされている。だが,その役割は男性の労働に比して低く評価されるか,まったく評価されないことが多い。
1979年に国際連合の女子差別撤廃条約が採択され,男女平等を目的として,あらゆる領域で性に基づく差別を解消する措置が義務づけられた。日本は,国籍法の改正,学習指導要領の改訂,男女雇用機会均等法を成立させて,1985年に本条約を批准した。

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百科事典マイペディア「性差別」の解説

性差別【せいさべつ】

性別(セックス)を理由に人を差別すること,またそれを支える制度,思想。英語ではsexism。女性に対する偏見や男性中心的な考え方,行動,風潮など女性に対する差別をさすことが多い。たとえば女性に対して〈女性にふさわしい〉言動を強制したり,男性にとっての魅力だけを基準に女性の存在価値を決めたりといった男性中心的な女性観である。おそらく家父長制社会の成立と同時にはじまったと見られるが,差別として表面化したのは比較的新しく,フェミニズムが生まれて以来のことである。現在もなお,法,政治,職場,学校など,社会の中で最も公正であるべき機関の中にも性差別があり,女性が差別を受けても,当然であるかのようにみなす風潮が消えない。なぜ性差別がこれほど根強いのかという問題については,女性学によって研究が続けられている。なお,一定の期間アファーマティブ・アクションを適用し,女性に優先的に雇用機会などを与えている国もある。男性差別も現実性が皆無とは言えない問題である。
→関連項目ウーマン・リブエイジズム性暴力性役割総合職男女平等男女別学二重基準買売春美人コンテストミレットメンズ・リブ

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デジタル大辞泉「性差別」の解説

せい‐さべつ【性差別】

性別に起因する社会的・文化的な差別や排除・制限。→ジェンダーフリー

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世界大百科事典内の性差別の言及

【均等待遇】より

…前者については,たとえば三菱樹脂事件の例に見られるように,政治的信条を理由に労働者の採用を拒否するような場合には,使用者の〈採用の自由〉の問題や,また〈採用〉ということが労働基準法3条にいう〈労働条件〉に含まれるかといった法律問題ともかかわって採用時における思想信条による差別の救済をきわめて困難なものにしている。他方,後者の性差別については,労働基準法3条に定める差別的事由(理由)に性別の文言がなく,また労働基準法4条も単に賃金に関しての性差別を禁止するだけといった法的不備が雇用における男女平等の実現を阻害してきた。このような法規定上の欠陥を補うため,裁判所はこれまで憲法上の平等原則(14条)や民法上の〈公序法理〉(90条)を適用することによって,女性労働者に対する種々の差別的取扱いを救済するのが通例であった。…

【女性解放】より

…政治,経済,社会,文化,家族のあらゆる領域での性差別から,女性が解放されること。女性に対する差別の原因は,男女の身体的性差と関係している。…

【性】より

…また同性愛についても,刑事罰の対象としている国や州,宗教的に罪とみる文化が存在する一方,性行動の一形態としての存在を主張する対抗文化的な解放運動などがある。また前述の男性的同一性,女性的同一性についても,その固定化を男性優位の社会における性差別であるとして激しく抗議するウーマン・リブ運動(婦人運動)もある。要するに,ヒトにおいては,性が単に生殖という生物学的な目的に資するだけでなく,とりわけ人間関係における重要な機能として,生活の全体に多面的な影響を発揮している。…

※「性差別」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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