日本大百科全書(ニッポニカ) 「マダコ」の意味・わかりやすい解説
マダコ
まだこ / 真蛸
common octopus
[学] Octopus vulgaris
軟体動物門頭足綱マダコ科のタコ。市場でもっとも普通にみられるタコで、このほかユーラシア、アメリカ大陸、オーストラリアなどに分布している。全長60~100センチメートル。体重3.5キログラムに達する。体表には大小のいぼがあって、網目状に暗色の筋(すじ)がある。目の周囲に棘(とげ)状の突起をもつ。各腕の長さはほぼ等しく、吸盤が70~80個ずつ2列に配列されている。雄の右第3腕が交接腕で、左第3腕よりわずかに短い。この腕の先端は扁平(へんぺい)な三角形の肉片に変形していて、生きているときはつねに巻き込まれている。マダコは水温15℃以上ならいつでも卵を産むが、多くは春から夏に岩棚の下や石の陰に卵塊を産み付ける。一つの卵は長径2.5ミリメートル、短径0.9ミリメートルぐらいで、糸状の柄があり、それが絡み合って房状になり、「海藤花(かいどうげ)」の名でよばれる。産卵後3~4週間で孵化(ふか)する。短い浮遊期間ののち底生生活に入る。マダコは多く岩礁性海岸にすみ、岩穴やクレバスをすみかとして強い縄張りを示すが、一方、沖合いの砂泥底を回遊する群れがある。これを「通りダコ」とか「渡りダコ」といい、前者は主としてたこ壺(つぼ)漁業によって漁獲されるのに対し、後者は底引漁業の対象となっている。おもな食餌(しょくじ)はカニ類などの甲殻類で、二枚貝なども好み、甲殻類漁業資源や、養貝業に害を与える。マダコが食用にされるのはアジアと南ヨーロッパ、中央アメリカの一部にすぎない。
[奥谷喬司]