エビ(読み)えび

改訂新版 世界大百科事典 「エビ」の意味・わかりやすい解説

エビ (海老/蝦)

甲殻綱十脚目Decapodaに属する節足動物の通称。長尾類Macruraと呼ばれることも多いが,腹部がよく発達しているという意味で,腹部が曲がっている異尾類,すなわちヤドカリ類と腹部が退化している短尾類,すなわちカニ類に対比していわれる言葉である。エビ類の体制は,体がクルマエビ類やコエビ類のように遊泳に適している側扁型,イセエビ類やザリガニ類のように歩行に適している横扁型に大別される。したがって,エビ,ヤドカリ,カニ類を長尾,異尾,短尾亜目と分類するのとは別に,遊泳型のエビ類を遊泳亜目とし,歩行型のエビ類をヤドカリ,カニ類とまとめて歩行亜目とする分類法もある。

 漢字では大型のイセエビ類などには海老,小型のクルマエビ類やコエビ類には蝦の字があてられることが多い。英語ではイセエビ類はspiny lobster,クルマエビ類などはprawn,コエビ類はshrimp,ザリガニ類はcrawfish,またはcrayfishであるが,漢字も英名もそれぞれの種については必ずしもこのとおりではなく,慣用的なことが多い。

エビ類の体は左右相称で,頭部5節,胸部8節,腹部7節からなっているが,頭部と胸部は頭胸甲と呼ばれる1枚のキチン質の外骨格で覆われているため,外からは体節構造は見えない。頭胸甲には眼上棘(がんじようきよく),眼側棘,触角上棘,鰓(さい)前棘,肝上棘と呼ばれるとげがあるほか,溝や稜があることがある。頭胸甲の前端には額角(がつかく)が発達しており,その長短,角度,歯と呼ばれる突起の有無,歯数などは分類学上のもっとも重要な特徴となっている。腹部7節のうち最後の節は尾節と呼ばれ,その付属肢とともに幅広い尾扇を形成している。

 頭胸部,腹部とも各体節には1対ずつの付属肢があるが,体節の部位に応じて変形し,それぞれの機能を果たしている。頭部の付属肢は前方から第1触角,第2触角,大顎,第1小顎,第2小顎で,エビ類を特徴づける長い触角は第2触角である。胸部の付属肢8対のうち前3対は顎脚(がつきやく)と呼ばれ,頭部の付属肢の後3対,すなわち大顎,第1小顎,第2小顎とともに口器を形成している。胸部の付属肢の後5対は,イセエビ類のようにまったくはさみをもたないか,クルマエビ類のように前3対にはさみをもつか,テナガエビ類のように前2対にはさみをもつか,タラバエビ類のように第2対目だけにはさみをもつか,いずれかの型に属する。腹部の付属肢は葉状の内外2肢からなり,腹肢と呼ばれるが,これは付属肢としての原型に近いものである。遊泳型エビ類では腹肢は重要な運動器官で,また雌は,卵を産み放してしまうクルマエビ類とサクラエビ類を除いて,卵を腹肢につけて孵化(ふか)するまで守る。雄では第1腹肢が交尾器に変形しており,分類形質として役だっている。

 呼吸器であるえらは頭胸甲の側甲で覆われた鰓室の内部におさまっている。えらはつく場所により脚鰓,関節鰓,側鰓と呼ばれるが,構造的には樹枝状えら(クルマエビ類),糸状えら(イセエビ類,ザリガニ類),葉状えら(コエビ類)に分けられる。

 口は前方の下側中央にある。食道は短く,一方,胃は大きく膨らんで,内面にキチン質の皮が厚くなり,石灰化した胃歯があることもある。腸はほぼまっすぐで,尾節の下部に肛門が開く。胃までが前腸で,腹部を貫通している部分が後腸,両者の中央部が中腸である。前腸と後腸は発生上は外胚葉性で,キチン質で裏打ちされている。中腸は消化酵素の分泌や消化,吸収の機能をもち,中腸腺(肝膵臓hepatopancreasとも呼ばれる)が付属して消化吸収を補助し,養分の貯蔵も行う。心臓は多角形で,頭胸部の後方,消化管の上にある。囲心腔に包まれ,太い動脈が前方に5本,後方に1本走っている。血液は無色で,血漿(けつしよう)中にヘモシアニンが含まれているため,長く空気に触れると淡い青紫色に変わる。排出器は触角腺で,第1触角の基部に開口するが,その色から緑腺とも呼ばれる。

 神経系は脳と各節の神経節およびそれらを結ぶはしご状の連鎖からなっており,各器官へ神経分枝が出ている。目は複眼で,テッポウエビ類以外では眼柄の先にある。目は一般によく発達するが,深海産のものや共生生活のものでは退化している。

生殖腺は頭胸甲内の消化管の上,心臓の下に位置し,精巣は第5胸脚の底節に,卵巣は第3胸脚の底節に開口する。タラバエビ科のすべての種と,テッポウエビ科の一部では雄性先熟の性転換が行われるため,大型個体はすべて雌である。卵を産み放つクルマエビ類とサクラエビ類では,卵は3対の頭部付属肢だけをもつノープリウスnauplius幼生として孵化するが,他のエビ類はもう少し進んだ時期のゾエアzoea幼生として孵化する。浮遊生活の間に脱皮を繰り返し,ミシスmysis幼生となり,その後稚エビに変態するが,後期幼生であるミシス幼生は各種ごとに特徴的な形態をもつことが多く,特別の名称が与えられている。淡水産のザリガニ類は発生過程が特異で,すべての幼生期を卵内で過ごし,成体形となって孵化する直接発生である。これはサワガニ類と同じく,淡水生活に適応した収れん現象と考えられ,生態と発生を系統的に考えると興味深い。脱皮による成長は甲殻類に共通の特徴であるが,エビ類では頭胸甲と腹部の間の膜が破れ,そこから背中側に抜け出る。やわらかいうちに水分を吸って大きくなり,もとどおりにかたくなるまでの1ヵ月間,岩陰などに潜んでいる。小型個体は年に数回脱皮するが,十分に成長した個体でも年1回は脱皮する。けがなどで切り落としたはさみ脚や歩脚は脱皮のときに再生する。

エビ類は本来海産で,淡水域にはザリガニ類のほか,テナガエビ類やヌマエビ類が生息しているにすぎない。浅海の砂底や岩礁の岩の間,サンゴ礁の隙間などで底生生活をするものが多いが,深海底にすむものもあり,深海から浅海にかけて一生浮遊生活をするものもある。また,他の動物と共生生活をするものも相当数知られており,なかでもカイメン類,サンゴやイソギンチャクなどの腔腸動物,二枚貝類,ウニやウミシダなどの棘皮動物がよく利用されている。その場合は色だけでなく,形態までも共生生活に適応して変形していることが多い。食性はほとんど肉食性で,主として夜間に活発に餌を求めて動き回る。

エビ類は約3000種が知られているが,食用として利用されている種類が多く,とくにクルマエビ類,タラバエビ類,イセエビ類がその大部分を占めている。しかし,その他の小型エビ類も各地でいろいろ加工されて食用にされており,また,釣餌などとしても広く利用されている。岩礁にすむイセエビ類は底刺網,クルマエビ類など沿岸性のものは打瀬網や手繰網,タイショウエビやタラバエビ類など沖合性のものは機船底引網で漁獲される。しかし,主としたエビ類の生息場所である沿岸の浅海が埋め立てられたり,汚染されたりして,漁獲量は横ばいか,むしろ減少傾向にある。一方で消費量は年々増加し,東南アジアやアフリカ,南アメリカなどから大量に輸入して補われている。

 最高級品の一つであるクルマエビは,人工孵化から成体まで陸上の池で完全に管理され,企業として成立している。他のクルマエビ類も世界各地で養殖が行われており,東南アジアでは淡水産の大型テナガエビ類の養殖も試みられている。しかし,イセエビ類は幼生期間が長く,その間の生態もまだ明らかでなく,産業レベルでの養殖はまだ行われていない。
執筆者:

エビを海老と書くことは中国にはなかったようであるが,日本では《和名抄》が鰕の和名を〈衣比〉とし,俗に海老の2字を用いるとしているように,平安時代にはすでに行われていた。ひげが長く腰の曲がった長寿の老人を思わせるところから海老の字をあて,その文字から祝意を含むものとし,正月の飾りや祝膳に欠くべからざるものとする風が生じたと考えられる。《本朝食鑑》(1695)はこうした慣習が古来からのものであるような記述をしているが,故実書や料理書から見ると,せいぜい室町後期に成立したものと思われる。江戸時代初頭には慣例として定着していたようで,《日本永代蔵》(1688)に見られるように,品不足のときには正月用のイセエビ1尾が小判5両という超高値を呼んだこともある。料理としては,イセエビは生作りがよい。頭から腹を抜き,肉をとり出して刺身にし,これを裏返して頭にはめ込んだ腹部の殻に盛る。こうした盛方は船盛りと呼ばれ,室町時代から行われていた。クルマエビは刺身,てんぷら,鬼がら焼きその他いろいろに料理される。てんぷら種には30g前後の〈まき〉と呼ばれるものがよい。〈さいまき〉ともいわれ,刀の鞘巻に似ているための称である。生きているものを〈おどり〉と呼び,刺身やすし種にする。シバエビはてんぷらのかき揚げ,わん種,すり身にして糝薯(しんじよ)などに,干したサクラエビはかき揚げなどに使う。タイショウエビ,クマエビ,ウシエビなどはクルマエビの代用とされ,ホッコクアカエビはアマエビとも呼ばれて生食される。中国料理西洋料理でもエビはさまざまに用いられている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「エビ」の意味・わかりやすい解説

エビ
えび / 蝦
海老

節足動物門甲殻綱十脚目長尾亜目Macruraの通称で、いわゆるエビ類をいう。分類学上、十脚類(目)のうち、腹部が曲がっているヤドカリ類の異尾類(亜目)と、腹部の退化が著しいカニ類の短尾類(亜目)に対応する。エビ類は腹部がよく発達しており、体が左右に扁平(へんぺい)で遊泳に適したクルマエビ類やコエビ類と、背腹に扁平で歩行に適したイセエビ類やザリガニ類に分けられる。前者の型を遊泳亜目、後者の型を歩行亜目とする分け方もあるが、その場合は後者にヤドカリ類やカニ類も含まれる。また、クルマエビ類とサクラエビ類は、海中に卵を産み放してしまうのに対し、ほかのエビ類とヤドカリ類、カニ類は幼生が孵化(ふか)するまで母親が卵を腹部に抱いて守る。このような習性の2型から、前者を放卵亜目、後者を抱卵亜目とする分け方もある。このようにエビ類の分類体系には異論があるが、クルマエビ類やコエビ類には「蝦」の字があてられ、「海老」はイセエビ類に対して用いられる。英名はクルマエビ類はprawnで、コエビ類はshrimpであるが、近年アメリカでは特別に区別せずにすべてshrimpとすることが多い。また、ヨーロッパとアメリカに産するいわゆるロブスターはlobsterであるが、イセエビ類はspiny lobsterである。ザリガニ類はcrawfishまたはcrayfishとよばれる。

 エビ類は、古生代デボン紀に出現し、中生代ジュラ紀にすでにクルマエビ類や各種のコエビ類が繁栄した。イセエビ類の化石はジュラ紀の地層から発見される。白亜紀には現生のエビ類と基本的にはほぼ似たような多くの種類がすんでいたと考えられる。

[武田正倫]

形態

エビ類の体は左右相称で、キチン質の外骨格で覆われている。頭部と胸部は1枚の頭胸甲で覆われているため、外から体節構造はわからないが、発生学的には頭部5節、胸部8節からなっている。頭胸甲には眼上棘(がんじょうきょく)、眼側棘、触角上棘、鰓前棘(さいぜんきょく)、肝上棘などがあるほか、溝や稜(りょう)があることが多く、それらの有無や形状は重要な特徴である。頭胸甲の前端には一般によく発達した額角(がっかく)があり、その長短、角度、歯数などが種の識別形質として利用される。腹部は7節で、それぞれ独立した甲で覆われ、互いに関節によって自由に屈伸する。最後の節は尾節とよばれ、第6腹節の付属肢とともに幅広い尾扇を形成する。

 頭胸部、腹部とも各体節に1対ずつ二叉(にさ)型の付属肢があるが、付属肢は体の部位、機能に応じて変形している。頭部付属肢は前方から第1、第2触角、大あご、第1、第2小あごである。第2触角は著しく長く、触覚の機能を果たしている。大あご、第1、第2小あごは胸部付属肢8対のうちの前3対、すなわち第1~第3顎脚(がっきゃく)とともに口器を形成している。胸部付属肢の後ろ5対は、内枝と外枝に二叉している場合と、していない場合があるが、つねに内枝がよく発達しており、基部から底節、基節、座節、長節、腕節、前節、指節の7節に分かれている。これら5対の胸脚はクルマエビ類のように前3対にはさみをもつか、テナガエビ類のように前2対にはさみをもつか、タラバエビ類のように第2対目だけにはさみをもつか、センジュエビ類のようにすべてにはさみをもつか、イセエビ類のようにまったくはさみをもたないか、すべてのエビ類はこれらのいずれかの型に属する。腹部付属肢は葉状の内・外枝からなり、腹肢とよばれる。腹肢は遊泳型エビ類では重要な運動器官であり、またコエビ類やザリガニ類の雌は卵を腹肢の毛につけて守る。雄では第1腹肢が交尾器に変形しており、分類形質として重要である。

 呼吸器であるえらは、頭胸甲の側甲で覆われた鰓室(さいしつ)内に収まっている。えらは、つく場所によって脚鰓、関節鰓、側鰓とよばれるが、理論的には胸部の各体節に1対の脚鰓、2対の関節鰓、1対の側鰓があるが、実際はかなり少なく、グループごとに一定している。構造的には樹枝状のえら(クルマエビ類)、糸状のえら(イセエビ類、ザリガニ類)、葉状のえら(コエビ類)に分けられる。口は前方の下側中央に位置し、続く食道は短い。胃は大きく膨らんで、内面にキチン質が骨化した胃歯をもつことがある。腸はほぼまっすぐで、尾節の下側に肛門(こうもん)が開く。胃までが前腸、腹部を貫通している部分が後腸、中央部が中腸で、前腸と後腸は発生上は外胚葉(がいはいよう)起源であって、キチン質で裏打ちされている。中腸は消化酵素の分泌や消化、吸収の機能をもち、中腸腺(せん)(肝膵臓(すいぞう))が付属して消化吸収を補助し、また栄養分の貯蔵も行う。

 心臓は多角形で、頭胸部の後方、消化管の上にある。囲心腔(いしんこう)に包まれ、太い動脈が前方へ5本、後方へ1本走っている。血液は普通、無色で、血漿(けっしょう)中にヘモシアニンを含んでいるため、長く空気に触れると酸化して淡い青紫色になる。排出器は触角腺で、第1触角の基部に開口するが、その色から緑腺ともよばれる。神経系は脳と各体節か、または神経節およびそれらを結ぶ梯子(はしご)状の連鎖からなり、各器官へ分枝が伸びている。目は複眼で、テッポウエビ類以外はすべて眼柄(がんぺい)をもつ。深海産や共生生活をする種では目の退化が著しい。生殖腺は頭胸甲内の消化管の上、心臓の下に位置し、精巣は第8胸脚の底節に、卵巣は第6胸脚の底節に開口する。

[武田正倫]

発生

卵を海中に産み放つクルマエビ類とサクラエビ類では、卵は3対の頭部付属肢だけをもつノープリウス幼生として孵化(ふか)するが、ほかのエビ類はもうすこし発生が進んで胸部付属肢をもつゾエア幼生になって孵化する。一般に、約1か月間の浮遊生活の間に脱皮を繰り返して後期幼生であるミシス幼生となり、その後に変態して稚エビとなる。ミシス幼生にはすでに腹肢も存在するが、種ごとに特徴的な形態をもつことが多く、特別の名称が与えられている。淡水産のザリガニ類はすべての幼生期を卵内で過ごし、成体形となって孵化する直接発生である。これはサワガニ類と同様に、淡水生活への適応と考えられる。

[武田正倫]

生態

エビ類は本来海産で、淡水域にはザリガニ類のほか、テナガエビ類とヌマエビ類が生息しているにすぎない。浅海の砂底やアマモ場、岩礁の岩の間やガラモ場、サンゴ礁のすきまなどで底生生活をするものが多いが、深海底にすむものもあり、また一生浮遊生活をするものもある。ほかの動物と共生生活をするものもかなりあり、カイメン類やサンゴ類、イソギンチャク類などの腔腸(こうちょう)動物、二枚貝類、ウニやウミシダなどの棘皮動物などを利用することが多いが、宿主に致命的な害を与えることはない。とくにカクレエビ類の生態は多様に分化しており、体色、形態とも共生生活に巧みに適応している。

[武田正倫]

漁業と養殖

エビ類は世界中に約3000種知られているが、水産業上とくに重要なのはクルマエビ類、タラバエビ類、イセエビ類である。なかでもクルマエビ属Penaeusの種が漁獲量の約4割を占めている。消費量は年々増加する一方であるが、漁獲量は横ばいか、むしろ減少傾向にあり、小形種の利用や深海性エビ類の開発などに目が向けられている。クルマエビ属の各海域の重要種は人工孵化から成体まで完全養殖が行われ、企業として成功している。ほかに東南アジアの河川にすむオニテナガエビの養殖も試みられているが、クルマエビ類に比べて市場価値が低い。イセエビ類に対する需要は多いが、幼生期間が約1年間もあり、産業レベルでの養殖はまだ行われていない。

[武田正倫]

料理

クルマエビやイセエビを筆頭に食用にされるエビ類は多い。日本はアメリカに次ぐエビの消費国であり、近年は黄海産のタイショウエビをはじめ、世界各地から多くの種類が大量に輸入されている。イセエビは中国料理、西洋料理ではよく正餐(せいさん)に用いられ、和風には刺身、蒸し物などに使われる。クルマエビは美味だが天然産は少ないので養殖している。てんぷらにはイセエビは不向きで、クルマエビかそれに近い種類のものが適し、てんぷらそば、天丼(てんどん)にはだいたい輸入エビが用いられている。クルマエビを殻付きのまま焼くのを鬼殻焼きという。クルマエビをよく洗い、適当な長さに輪切りにして、楊枝(ようじ)または金串(かなぐし)で背わたをとり、鍋にみりん7、酒3の割合で注ぎ、エビを加えて煮込み、しょうゆ、うま味調味料で味を調える。炭火を用いて殻まで食べられるほど加熱するのが特色である。現在は熱源が変わったので、殻はたいてい食べられない。すし種(だね)にはクルマエビをゆでたり煮たりして用いているが、生きているクルマエビを生(なま)のまま「おどり」と称して食べることもある。ホッコクアカエビも、生食すると甘味があり、アマエビと称されてすし種にされる。

 輸入エビはてんぷら、中国料理、西洋料理などに広く用いられている。シバエビは元来東京・芝浦で多くとれたのでこの名があるが、いまでは各地で漁獲されている。味がよく用途は広い。テナガエビは、カワエビと称されてから揚げに向き、酒の肴(さかな)として好まれる。サクラエビは静岡県の名産で、干して出荷している。岡山県の小エビの塩漬けは郷土の珍味であり、また広島県尾道(おのみち)の海老(えび)茶漬けは、小エビの頭、尾殻をとり、しょうゆ漬けにして焼いたものを用いる。

多田鉄之助

民俗

鎧(よろい)・兜(かぶと)に身を固めた武士のような風格のイセエビは、ひげが長く武勇の象徴として縁起のよいものとされた。また、『延喜式(えんぎしき)』や『倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』以来海老とも書くように、腰の曲がったひげの長い老人を連想させるところから、長寿の象徴としてめでたいものとされ、江戸時代から正月の鏡餅(かがみもち)や輪飾り、蓬莱盤(ほうらいばん)などに用いられてきた。また飾りエビの赤い色が無病息災の魔除(まよ)けとして縁起物とされ、おもに関東で用いられるが、関西では掛鯛(かけだい)が多く、地方によってはかわりに干し柿(がき)を使うところもある。夫婦が愛し合い、ともに長生きすることを偕老同穴(かいろうどうけつ)というが、これは、カイロウドウケツという海綿動物の胃腔内には、普通ドウケツエビの雌雄がすんでいて、一生をその中で過ごすところからいわれるようになった。イセエビの産地の三重県志摩市浜島町では、毎年6月第1土曜日に豊漁を祈願して、張りぼての大エビを担いで練り歩く伊勢えび祭(いせえびまつり)の行事が1959年(昭和34)に始められ、年々盛んになっている。

[矢野憲一]


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食の医学館 「エビ」の解説

エビ

《栄養と働き》


 エビは3000種類ほどあり、色も形も大きさもさまざまです。日本で常用されるおもなエビは、結婚式やお祝い事に用いるイセエビ、てんぷらに使うクルマエビやタイショウエビ、刺身や寿司ダネにするアマエビ、かき揚げやしんじょにするシバエビ、天丼やてんぷらそばに用いるブラックタイガー、釜上げにするサクラエビなどがあります。
〈ベタインが血糖値、コレステロール値を下げる〉
○栄養成分としての働き
 エビの甘みは、遊離アミノ酸のグリシンやアラニン、プロリン、ベタインによるもの。なかでもベタインは、血中コレステロール値の上昇を抑え、糖の吸収を阻害する力があります。糖尿病や脂質異常症予防に役立ちます。
 また、タウリンも多く、エビに含まれるコレステロールの影響を緩和する働きがあります。タウリンは高血圧が原因となる血管障害を予防するほか、肝機能を高め、解毒作用を強化したり、コレステロールが原因となる胆石(たんせき)の予防に働きかけます。
 殻(から)ごと食べるサクラエビは、カルシウム(素干し2000mg)がとれるので骨粗鬆症(こつそしょうしょう)によいのですが、それ以上に、殻と身にはアスタキサンチンが含まれ、発がん抑制に役立つとされています。さらに殻に含まれるキチン質(不溶性食物繊維)には、抗がん作用や、老化を抑え、腸内環境を正常化させ、自然治癒力(しぜんちゆりょく)や免疫力を活性化させる作用があります。
○漢方的な働き
 漢方薬膳(やくぜん)では強壮薬、頻尿(ひんにょう)治療薬として用いられるほか、じんま疹(しん)、はしかなどで発疹(ほっしん)をうながし、毒を体外にだす治療薬としても使います。

《調理のポイント》


 クルマエビは夏から冬にかけて、イセエビは秋から冬にかけて、シバエビは秋、アマエビは秋から冬、サクラエビは冬から初夏までが旬(しゅん)。頭のつけ根がしっかりし、全体的に透明感があれば新鮮なものです。鮮度がよければ刺身でいただけます。てんぷらにするときは、背わたを落とし、尾を切って水分をしごきだすと油がハネません。冷凍エビの解凍は、水に浸すと、においがとれます。
○注意すべきこと
 エビは、アレルギー体質の人や暑がりで元気な人が食べすぎると、かゆみのでることがあります。
 とくに背わたはアレルギー反応を起こしやすいので注意してください。

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百科事典マイペディア 「エビ」の意味・わかりやすい解説

エビ(蝦/海老)【エビ】

甲殻綱十脚目長尾類の総称。頭胸部,腹部からなる。第2触角は特に長く,胸脚ははさみをなすものが多い。腹部は7節,筋肉がよく発達しその屈伸によって運動する。外骨格が比較的薄く水中を泳ぐ遊泳類と,外骨格が堅い歩行類とに分けられる。熱帯〜寒帯に広く分布,淡水産にはヌマエビ,テナガエビ,ザリガニなどがいるが海産種が多い。成長の過程は一様ではないが,ふつうノープリウス,ゾエア,ミシスなどの幼生を経て成体になる。イセエビ(歩行類),クルマエビサクラエビテッポウエビクマエビタイショウエビ(コウライエビ),ホッカイエビシバエビ(遊泳類)など水産食品として重要なものが多い。沿岸性のものは打瀬網で,深海性のものは機船底引網で,イセエビは底刺網で漁獲。クルマエビ他の養殖事業も盛んである。一般に美味で惣菜(そうざい),高級料理に用いられ,干しエビ,つくだ煮の材料となり,漁業飼料としても重要。
→関連項目甲殻類

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栄養・生化学辞典 「エビ」の解説

エビ

 広く食用にされる節足動物,甲殻類の生物.

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「エビ」の意味・わかりやすい解説

エビ

長尾類」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内のエビの言及

【水産物貿易】より

…輸入額が輸出額を超えたのは高度成長時の1971年である。所得増加を背景にした水産物需要の増加は,日本での漁獲高が少ないエビ,カニ,魚卵,マグロ等にも向かいはじめ最大の水産物輸入国であったアメリカを78年に追いぬいた。輸入品目としては,冷凍エビをトップ(輸入額の20%強)に近年伸びてきたマグロ(10%),サケ・マス(6%),イカ・タコ(6%)などとなっている(いずれも1995)。…

※「エビ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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