改訂新版 世界大百科事典 「マリア論」の意味・わかりやすい解説
マリア論 (マリアろん)
Mariology
カトリック神学の一部門。イエス・キリストの母マリアの役割を,キリストの受肉(神であるキリストが人間になること)と人類の罪の贖いと救済のなかで神学的に規定し,その意義をきわめようとするもの。この部門はいくつかの教会によって決定・定義された教義を出発点にして,マリアの役割をさらにくわしく解明し,その教義を展開する。扱われる主題は,マリアが神の母であること,母であるが処女であったとするマリアの処女性,彼女から生まれるキリストの恵みを先取りする形で,マリアはその誕生のさい原罪のけがれをまぬかれたとする無原罪のやどり,地上の生涯の後マリアは霊魂と身体とも天の栄光にあげられたとする被昇天などである(後の二つはそれぞれ1854年,1950年に教義決定宣言がなされた)。新約聖書には,マリア論の基礎となるべき個所がいくつか見られる(《マタイによる福音書》1:16~2:23,12:46~50,《マルコによる福音書》3:31~35,6:3,《ルカによる福音書》1:26~2:52,8:19~21,11:27~28,《ヨハネによる福音書》1:14,2:1~12,19:25~27,《ローマ人への手紙》1:3,《ガラテヤ人への手紙》4:4)。なお,《ヨハネの黙示録》12章はマリアよりも教会のイメージだと考えられている。古代教会においてマリア論がキリストの本性と役割の明確化への要求とともに発達したことは,キリスト論の重大な決定を行ったエフェソス公会議(431)がマリアを〈キリストの母〉とは言えても,〈神の母〉とは言えないとしたネストリウスの異端に反発して招集されたことからもうかがわれる。16世紀のプロテスタント間の〈和協信条〉(1577)ではマリアが〈神の母〉と宣言されているにもかかわらず,プロテスタント側からの攻撃に対するカトリックの弁明の必要から,以後マリア論が専門分野にまで発達し,近代における,教皇による二つの重要なマリアに関する教義の宣言を生み出すようになる。第2バチカン公会議では,マリア論は教会憲章の最後の部を飾る形で示され,マリアは終末における教会の姿を表すとされる。
→キリスト論
執筆者:高柳 俊一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報