ギリシア名はネストリオスNestorios。コンスタンティノープル主教。在位428-431年。キリスト論をめぐる論争で異端とされた。シリアのゲルマニキアに生まれ,モプスエスティアのテオドロスのもとでアンティオキア学派の神学を学んだとされる。皇帝テオドシウス2世によってコンスタンティノープル主教に任じられ,首都の教会の代表として聖職者の規律を引きしめ,異端の撲滅にのりだした。ネストリウスの意を受けた司祭アナスタシオスAnastasiosが,当時ひろく行われていた聖母マリアの尊称〈テオトコス(神の母)〉に反対する説教を行い,キリスト教世界全体に大きな衝撃を与え,論争が始まった。ネストリウスは,キリストにおける神性と人性の区分を明確にするために,〈テオトコス〉の尊称がキリストの完全な人性を損うとしてこれを退けたわけだが,一般には聖母に対する冒瀆と受けとられた。アレクサンドリア主教キュリロスは,ローマ司教ケレスティヌス1世Coelestinus Ⅰ(在位422-432)とともに,ネストリウスの教説を異端ときめつけた。問題の解決のために開かれたエフェソス公会議(431)は分裂会議となったが,ネストリウスは罷免され,のち追放の身となり,上エジプトでみじめな死をとげた。死の直前に書いた《ヘラクレイデスのバザール》において自己弁護を試みた。現在では,ネストリウスの教説は,キリストの神性と人性の結びつきを示す術語の曖昧(あいまい)さを除けば,特に異端とするものでもなく,その失脚は政治的なものであったと考えられている。なお,ネストリウス派は彼の教えをさらに発展させた教団であって,ネストリウス自身が創建した分派ではない。
→ネストリウス派
執筆者:森安 達也
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コンスタンティノープルの総主教。キリスト教異端説の唱導者とされる。シリアのゲルマニキアに生まれる。アンティオキア学派のもっとも有能な神学者であるモプスエスティアのテオドロスTheodōros(350ころ―428)に師事した。アンティオキアの長老、修道士であり、また説教者として名声を博した。428年、ビザンティン帝国皇帝テオドシウス2世によってコンスタンティノープルの総主教職に招聘(しょうへい)された。正統信仰を擁護し、異端には厳しく反対した。しかしペラギウス派には寛大であった。ネストリウスはキリストの神性と人性を区別し、当時、ナジアンゾスのグレゴリオスなど有力な教父たちがマリアに対して用いていた「神の母」(テオトコスθεοτκος)という尊称に反対する説教を行い、431年、エフェソス公会議で異端と断罪され、罷免された。436年、エジプトの奥地に追放され、悲惨な生活を送り没した。自叙伝風の『ダマスコのヘラクレイデス論』(19世紀末発見され、1910年刊行)によって彼の神学的な立場がよりよく知られるようになった。
[中沢宣夫 2017年12月12日]
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381?~451
ネストリウス派の祖。説教者として名声があり,テオドシウス2世によってコンスタンティノープルの総大司教に任じられた。マリアに対する「神の母」の呼称を退けたため,キリストの神性と人性とを分離するとしてアレクサンドリアのキュリロスの攻撃を受け,431年エフェソス教会会議で異端として追放され,エジプトで死んだ。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
…キリストにおける神性と,人性の関係といった微妙な問題をめぐって生じた教義論争に決着をつけるために,キリストは完全な神性と完全な人性を備えるとしたうえで,その両者の関係を〈混ざらず,変わらず,分かれず,離れない〉という否定の表現によって規定した。このうち前半は神性の優位を主張した単性論を否定したもの,後半は人性と神性の明確な区分を主張したネストリウスを批判したものである。しかしネストリウスの説を正面から否定していないので,のち単性論派からネストリウス的異端として弾劾されることになった。…
…アリウス説はニカエア・コンスタンティノポリス信条(381)において退けられ,ここに正統的教義が確立した。このとき,キリストの人性の完全性を否定するアポリナリウスも退けられたが,続いてネストリウスは逆に人性を第一として神性を弱め,あるいはエウテュケスは人性を神性の中に吸収するなど,神性・人性の区別を明らかにしない〈単性論〉が行われた。これを排したのはカルケドン信条(451)の〈両性論dyophysitism〉であって,〈両性は混合せず分離せず〉というのがその表現である。…
…大秦景教ともいい,キリスト教ネストリウス派に対する中国でのよび名。ネストリウスが,キリストやマリアの神性を弱めると解されかねない説を主張したため,431年のエフェソス公会議で異端と決定され追放されると,東方に教圏をもとめ,まずイランの地でかなり栄え,ついでさらに遠く中国に至ったのである。…
※「ネストリウス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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